【 本記事のターゲット 】
- NHK杯戦名勝負十局を知りたい
- 歴史に残る王将の大落手の局面(加藤 vs 大山)を知りたい
今回は過去のNHK杯名勝負十局の内にも選ばれた加藤一二三王将vs大山康晴十五世名人(タイトルは当時のもの)の対局をご紹介します。
こちらは以前NHK放送でもご紹介がありましたが、名勝負十局にも選ばれた対局です。
当時将棋講座のテキストには「歴史に残る王将の大落手」と大々的な見出しにもなっており、アマチュアの方でも知っている方も多いのでは?
ちなみにmog自身、まだ生まれていないので実際に見た事はありませんが、気になって当時の譜面や加藤先生や羽生先生のインタビューなどを一通り聞いてみました。
諸々参考にしながら当時の譜面を再現しつつ解説します。
目次
「大山」対「加藤」、歴史に残る王将の大落手が生まれた対局の詳細
対局名
第29回(1979年)NHK杯テレビ将棋トーナメント 3回戦
対局者(段位は当時のもの)
先手:加藤一二三王将
後手:大山康晴十五世名人
「大山」対「加藤」の大頓死はどういったものなのか。実際の対局内容を棋譜付きで解説
戦型は居飛車 vs 四間飛車
先手が加藤先生、後手が大山先生になります。
戦型は加藤先生得意の居飛車vs大山先生得意の四間飛車となりました。
この後お互いに玉を囲い、その後加藤先生が▲3七銀から▲2六銀と棒銀の形に持って行きます。
大山先生も相振り飛車戦型になり、お互いの飛車先がぶつかりそうな局面になっています。
その後飛車先で諸々駆け引きがあり、2筋から3筋へのぶつかり合いと発展し、丁度大山先生の角筋が加藤先生の1九香車を睨んでいるような形になっています。
丁度4六の地点の歩で角筋を止めています。
3筋4筋あたりで戦いが起こるかなと思っていたのですが...この後思いもよらない地点で戦いが発生します。
中盤以降、6筋が戦いの起点へ
中盤以降、3筋か4筋で戦いが発生するかと思われた局面ですが、その後▲5五歩、▲5八飛車と4筋で角筋を止めていた箇所が5筋に移動したのをきっかけに加藤先生の中飛車&6筋の位がどんどん大山先生側へ迫って行きます。
しかし「攻めの升田、受けの大山」と言われる通り、大山先生は脅威の受けを見せます。
加藤先生がどんどん迫って行く中、的確な受けでなんとか攻めを凌ごうとします。
上記図の通り、金を相手陣地へ放り込んで、大山先生側の玉の囲いをバラバラにします。
しかし、浮いた飛車を逆に責め立てようと手駒を使って加藤先生の飛車をいじめます。
金銀で加藤先生の飛車を囲い、そろそろ飛車がとれそうな局面です。
しかし若干気になっているのは大山先生の玉の周り...金銀が一枚も居ない状態なので、一気に詰めろがかかってもおかしくない状況です。
終盤、加藤先生が逆転し、そのまま勝ちかと思われたが...
金銀で加藤先生の飛車を取る事に成功した大山先生。しかし飛車が取れたと行っても玉の周りはかなり薄い状態...
今下記図で加藤先生が▲7五銀と大山先生の金に当てた所、△3三角と金に紐を付けながら加藤先生の玉のラインに角を持ってくると行った強手を放った局面です。
しかしここで加藤先生が指した手が▲8四銀!守らずに攻めに回ったのです。
角のラインがかなり怖い所で、大山先生も△7六金と角筋を玉にあてつつ、金も相手玉に迫るという強烈な攻めを続けます。
▲9八玉とギリギリの所で王手をかわす加藤先生...しかしまだ加藤先生側の玉に詰みは無い状況...
ちなみに大山先生側の玉は周りに守り駒がいないのでこのまま放っておくと、▲8三銀打、△7一玉、▲7二金打と即詰んでしまう状況になっています。※下記参考図
なので大山先生側は守らないと行けない局面...ちなみに玉の早逃げは▲7七歩成以下の詰み、△8三歩打でも▲7七銀打からの詰みになってしまいます。
実はここで即詰みを回避する手は△8三飛車打と横のラインも効かせるような守り方しかないのです。
当然大山先生も分かっているので△8三飛打と指しますが、▲7一銀、△同玉、▲8三銀成、△6二玉、▲8二飛車打、△5一玉と王手王手で大山先生の玉に迫ります。
▲6三歩成となり、同銀だと飛車を抜かれてその後詰みになります。
他に受けは有るのか...と思われたのですが、ここは恐らく形作りという意味も含まれていると思うのですが、大山先生は△6九銀打と7八の金を狙いに行きました。
しかしこの局面はちょっと難しいですが恐らく後手は詰んでいる局面かと...
NHK杯なので持ち時間は短く、既にこの時は秒読みです。
事件発生、加藤王将の大落手&大悪手。大頓死
加藤先生は後ほどのインタビューでも述べていますが、詰みまで読み切れなかったが、王手王手しているうちに恐らく詰むだろうと。
しかし一旦ここは受けて次の手で詰ましに行こうと思っていたそうです。
そして秒読みの中で指した手が...
▲8八金!
その瞬間!大山先生の手はまさに電光石火!
一瞬で△同角成と角を切って金を瞬時に取りました...
ここで加藤先生投了...まさか...
加藤先生の大落手&大悪手です。まさに大頓死ですね。
こちら、流石に見て分かる通り、同玉でも同角でも△8七金打で即詰みです...
もし王手王手で攻めていれば加藤先生の勝ち
仮に金を寄らずに大山先生の玉に迫ったとしましょう。
△6九銀と打った後、▲6二飛成、△4一玉、▲5二とと銀をとる所から見て行きます。
△同飛車、▲6一龍、△5一飛車、▲5二銀打と進みます。
まだ加藤先生側は詰めろがかかっていない状況なので、一手余裕があります。△3二玉と逃げても▲5一銀成らずとして...
もし△7八銀成と指してくれば、▲5二龍、△4二金打、▲4二銀成、△同角、▲2二金打...
逃げると▲3二飛打で詰みなので同玉ととるしかありませんが、▲4二龍、△3二金打、▲3一角打、△1二玉、▲1三飛車打、△同桂、▲3二龍として詰みとなり、加藤先生の勝ちになります。
なので王手を続けていれば、詰みまでは少々長いですが間違いなく加藤先生が勝っていた局面だったのです...
しかし秒読みという事で、最後まで読み切れずとっさに指してしまった手が▲8八金...
こちらの対局は既に40年近く経過しようとしておりますが、未だに将棋ファンの間やテレビ放送などでも紹介されるくらい有名な1局となってしまいました...
先生方のコメント
こちら、mog自身はNHK将棋テレビでの紹介で初めて知ったのですが、その時加藤先生と羽生先生が本局に対してコメントを残されているので下記に紹介しておきたいと思います。
加藤先生のコメント
私が考えたのは秒読みの中で王手王手という事を考えたが読み切れなかったので一回受けに回った。
一度受けた後王手王手で勝ちに行こうと思った。どう考えてもこの局面は勝ちだった。
しかし王手とさせば良かったものの、実際に一度受けに回った手でもある▲8八金と寄った所、大山先生が素早く同角成とされた。
アマチュアの方から、加藤さんに待ったはゆるさんぞという気迫にこもった手のように見えたという話をされる事があります。
私自身逆転負けが多い棋士ですが、こういう逆転負けをするのは初めてです。
羽生先生のコメント
大山先生が優勢、加藤先生が終盤で逆転でした。終局間近、流石に逆転がおこらないと思った局面であのドラマが起こった。
大山先生の金を取るのが電光石火という感じ(金が寄った瞬間に同角成と指された)で本当に早かった。
ということで、今回は加藤一二三 vs 大山康晴 のNHK杯戦大頓死&逆転負けをご紹介しました。
実際に本局は映像が残っていないので確認が出来ないのですが、大山先生が加藤先生の金を取ったのが本当に早かったらしく...実際にどんな感じだったのか見てみたいですね。
このように将棋の記憶に残っている対局は40年を過ぎた今でも語り継がれています。
最近紹介した羽生マジックや、藤井聡太プロの対局も後々後世に語り継がれて行く事でしょう。