将棋は人間とAIどっちが強い?第2期電王戦第2局名人vsPONANZAの対局を解説

2017年5月20日

【 本記事のターゲット 】

  1. 将棋プロ棋士とコンピュータ(AI)、どちらが強いのか興味がある
  2. 人間(将棋プロ棋士) vs コンピュータ 電王戦としての最後の対局を見届けたい
  3. どのような対局だったのか知りたい

以前の記事にて過去の電王戦の対局結果や人工知能の進化について記載させて頂きました。

今期で最期となる電王戦。第2期電王戦・第2期叡王戦を勝ち抜いた棋士(佐藤名人※当時)と第4回将棋電王トーナメント優勝ソフト(PONANZA)による2番勝負。

持ち時間は5時間(チェスクロック方式)持ち時間消費後は秒読み1分といったルールで実施されています。

そして2017年5月20日、電王戦としては最後となる佐藤天彦名人 対 PONANZA の第2局目が実施されました。

そちらの内容を棋譜キャプチャ付きで解説します。

過去のプロ棋士vsコンピュータ(AI)の将棋対戦結果

まずは将棋に関する「人間vsコンピュータ」の結果を知らないという方も多いかと。

なので今まで実施されたプロ棋士vsコンピュータの結果を下記にわかり易く纏めてみました。※段位・タイトルは当時のもの

将棋電王戦(2012年)

プロ棋士勝敗コンピュータ
第1局米長邦雄永世棋聖ボンクラーズ

第2回将棋電王戦(2013年)

プロ棋士勝敗コンピュータ
第1局阿部光瑠 四段習甦
第2局佐藤慎一 四段ponanza
第3局船江恒平 五段ツツカナ
第4局塚田泰明 九段Puella α
第5局三浦弘行 八段GPS将棋

第3回将棋電王戦(2014年)

プロ棋士勝敗コンピュータ
第1局菅井竜也 五段習甦
第2局佐藤紳哉 六段やねうら王
第3局豊島将之 七段YSS
第4局森下卓 九段ツツカナ
第5局屋敷伸之 九段ponanza

将棋電王戦FAINAL(2015年)

プロ棋士勝敗コンピュータ
第1局斎藤慎太郎 五段Apery
第2局永瀬拓矢 六段Selene
第3局稲葉陽 七段やねうら王
第4局村山慈明 七段ponanza
第5局阿久津主税 八段AWAKE

第1期電王戦(2016年)

プロ棋士勝敗コンピュータ
第1局山崎隆之叡王(八段)ponanza
第2局山崎隆之叡王(八段)ponanza

第2期電王戦(2017年)

プロ棋士勝敗コンピュータ
第1局佐藤天彦叡王(名人)ponanza
第2局佐藤天彦叡王(名人)5月20日対戦ponanza

今までのプロ棋士vsコンピュータ(AI)の結果ですが...

5勝13敗1分

となっています。圧倒的にプロ棋士が負け越しといった状態になっています。

前回の第2期電王戦第1局では佐藤名人の負けとなりましたが、第2局ではどうだったのでしょうか...やはり人間はもうコンピューターには勝てないのか...

今回で最後となるプロ棋士 vs コンピュータの対局を棋譜付きでポイントを絞ってご紹介したいと思います。

ちなみに第1局は下記に纏めておりますので良ければご覧頂ければと思います。

第2期電王戦 THE LAST 第2局を解説

出典:ドワンゴ

対局時の状況

日時:2017年5月20日(土)AM10:00開始

先手:佐藤天彦叡王(名人)※当時

後手:PONANZA

場所:兵庫県姫路城

佐藤名人は白の和服で登場、姫路城内を歩いてそのまま対局上へ...かっこいいとのコメント多数。和服に姫路城...似合いますね♪

出典:ニコニコ生放送

山本一成さん・下山晃さん開発のPONANZA、ロボットはDENSO製となっており、コマの配置もとてもスムーズです。

出典:DENSO

佐藤さんはパチッ、パチッ、と置くのに対してロボット側は音をたてずにスムーズに配置。

立会人の先崎九段がとても興味深そうにロボットアームを眺めていました。

出典:ニコニコ生放送

さて、コマの配置も完了してまもなく開始です。

対局開始&序盤解説

AM10:00を回った所でお互い礼をした後、佐藤さんの先手で始まりました。初手は▲2六歩...

二手目のPONANZA...新手△4二玉

初手をさされてから20秒も掛からず二手目をさすPONANZA...中村先生、深浦先生が大盤解説をしていたのですが、解説からもどよめき...

第1局目も初手3八金と指したPONANZAですが、なんと第2局も指した手は△4二玉!?こんな手があるのか?

解説からも「これは新手になるんでは?」と驚きのコメント多数。

前回も3八金と指したPONANZAですが、mog自身が将棋を教えられたときは初手はかならず「飛車先の歩」か「角道の歩」のどちらかを開けると教えられたものです。

今回のように△4二玉と上がってしまうと、後から振り飛車に変更したり出来なくなるので戦型の可能性が減ってしまうんですよね...

しかしPONANZA、前回に引き続き歩を付かないという戦型。その後▲2五歩、△3八金、▲7八金、△8四歩、▲7六歩と進んで行きます。

この後、△8五歩、▲7七角、△3四歩、▲8八銀と進んで行きます。

解説でも角交換になるんじゃないか...という話が出て、△7七角成、▲同銀と角交換という形で進んで行きました。

二手目が驚愕でしたが、進んでみれば見慣れた場面に...ただこの状況だと攻め合い&進行が早くなるんではないかという予想がプロ棋士間でされています。

△2二銀、▲4八銀、△3三銀、▲3六歩、△6二銀と佐藤さんの早繰り銀戦型へと進んで行きます。解説でも中盤がないような展開を狙っているのでは...との事。

20手目 PONANZA△5一銀!?

またまたPONANZAが妙手を...△5一銀!?折角△6二銀と上がったのにまた下がる!?

中村先生も「見た事がない手」と、攻めの銀を守りに付けるのではと深浦先生。やはりこの手も新手ではないかと解説で仰っていました。

この手の意味ですが、解説では△4四歩と伸ばして△5二銀、△4三銀と銀を2枚並べることを想定しているのではとの事。

銀が二枚揃うとかなりがっしりした形になって守りに強くなるので、2筋3筋を銀二枚で防ぐ事を考えているのでは?と解説していました。

先手が攻める、後手が守るという展開を想定しての指し手...さて、そろそろ中盤にさしかかってきましたね。

PONANZAの奇手に耐えつつ中盤へ...

中盤以降、佐藤さんの早繰り銀から棒銀への戦型へ...

飛車先の歩も交換出来たので、解説でも先手を持ちたいという声もちらほら...そこでPONANZAが△6四角打と飛車のラインに放った所です。

当然▲3七角打と受けますが、その後△1四歩と突かれて▲2六銀と後退します。

現時点では評価値は佐藤名人側が有利となっておりますが、上部が抑えられつつあるようにも受け取れる場面...そしてPONANZAがさらに端歩を△1五歩と伸ばしてきます。

中村先生も「見せてくれますね〜」と関心されている様子。

この後少しコマ組が進んで行くのですが、43手目に少し異変が...下記▲6八金と指した場面です。

この場面にて今まで佐藤先生側の評価値(elmo使用)が良かったのが一気に互角まで評価値が変動...中村先生の解説によりますと、金が寄った事で角交換後の▲4六歩が突けない所を評価として見ているのでは...との事。

先手の理想型としては、角交換&▲3七桂と跳ねて▲4六歩、▲4五歩と突いて行きたい所だが、▲4六歩と突いた瞬間に金が寄ったが為に△4七角打と打たれてしまうという所がマイナスポイントに動いたのでは?との事。

いやはや、ここまで正確に先読みと判断が出来るコンピュータ&AI技術って本当に凄いですよね...

このあと角交換、さらに△9五歩と突いて先手側に圧力をかけて行くPONANZA...この後どうなって行くのでしょうか...

先手佐藤叡王、穴熊へ

さて、角交換&棒銀となったので短期決戦かと思われたのですが...先手側(佐藤さん側)が端歩を受けなかったのは穴熊を目指していたのか...

それとも穴熊にせざるを得なくなってしまったのか...下記図のようにお互い玉を囲い出します。

ぱっと見た感じ、互角でまだまだ戦いが始まっていないように見受けれられる局面なのですが...ここでelmoの評価値に再度異変が...

佐藤先生側が−200前後...PONANZA+200前後...ついに評価値が逆転。

しかしこの囲いだと短期決戦ではなくまだまだ長引きそうな感じですね。前回は70手ちょっとで終局となりましたが、この感じだと100手は超えそうな予感...

15手ほど進めると下記の場面となりました。囲いはお互いにがっしり、攻めどころをお互いに見つけ合いながら隙あれば角打ちをねらうという...

今PONANZAが△5六角打と狭い箇所に打ち込み、▲4八飛と受けた後△6五歩と突いた所...

最初PONANZA側が受けに回ったと思いきや、気がつけば後手が攻めに転じているように見えます。

解説でも深浦先生が仰っていましたが、この角打ちは金と交換覚悟で打ち込んでいるような角との事でPONANZAが積極的に攻める展開になってきています。

この局面で佐藤先生が長考...かなり難しい局面です。そして長考の末に指した手は▲5四歩。PONANZAが△6六歩と歩を伸ばし、▲6八歩打と佐藤先生が受けます。

ここでelmoの評価値に再度異変が...佐藤先生側が−400前後...PONANZA+400前後...

解説でも評価値が+−200前後はそこまで気にしなくてもいいが、400を超えてくると人の目でもどちらが優勢か分かるレベルとの事です。

たしかにこの局面だとPONANZA側は飛車角全て働いていますが、佐藤先生側の飛車や手持ちの角が眠ったままになっているのでちょっと苦しい展開に見えます...

PONANZA優勢のまま、終盤へ突入...

△7五歩、▲5五角打、△7六歩、▲同銀、△7五歩打、▲8五銀、△9三桂、▲9四銀と進んで行きます。

これは厳しい...完全に銀の動きが死んでいます...PONANZAの角筋が7四の地点に聞いているので、9四に行くしかなかったのですが...これは流石に厳しいのでは...

もちろんこの状態であればelmoの評価値が再度変化します...佐藤先生側が−800前後...PONANZA+800前後...

明らかに差が広がってきています。ここまで来るとmog自身(二段レベル)でもはっきりと優劣が分かる展開です。

さらにPONANZAは攻めを続けます。

△8六歩打、▲4五桂打、△7八角成と角を切り金と交換します。▲同金、△6七歩成...

佐藤先生側が−1100前後...PONANZA+1100前後...さらに評価値は開いて行きます。

▲同歩、△8七歩成、▲同金、△6七飛成...

完全に先手側の穴熊が崩壊してしまいました...序盤の妙手も凄いとは思うのですが、終盤近くのコンピューターAIのミスがない指し回しは凄すぎです...

PONANZA勝利、プロ棋士(名人)にAI(コンピューター)が勝つ

▲7八角打、△6三龍、▲9一角成、△8六歩打、▲同金、△4五歩と龍を引いたり桂馬を取ったりと手堅く進めるPONANZA...

評価値は遂に2000に近づいてきました。

出典:ニコニコ生放送

▲5五馬、△4四金...

この手を見てから何度も席を立つ佐藤天彦叡王(名人)、今日の棋譜を読み返す佐藤天彦叡王(名人)...解説も「いろんなものを背負って挑んだ対局なので、気持ちの整理がつかないのでは...」と...

私自身ちょっと見ていて辛そうな感じが...なんと表現したらいいのか、昔スーパーファミコン時代に将棋に関しては絶対にコンピューターは人間に勝てないと思っていたのに...

それからはや25年、トッププロと対局してこんな事になってしまうとは...

そしてこの94手目△4四金を持って

  • 佐藤天彦叡王(名人)「負けました」

残り時間は佐藤天彦叡王(名人)は数分、PONANZAは2時間以上...対局内容もそうですが、持ち時間に関してもコンピューターの圧勝となってしまいました。

佐藤名人にはPONANZAを事前に貸し出しによる研究&対応策が練れるという特権が与えられているのですが、事前対策&名人の実力を持ってしても勝つ事が出来ないとは...

最後に

コンピューターAIが導き出す将棋の差し回しは既に人間には未知の世界。将棋に関しては人間を超えてしまったと言っても過言ではないでしょう。

最近はプロ棋士ですらコンピューター将棋を使って研究しているとも聞きます。

将棋界最高峰タイトルでもある名人保有の佐藤天彦叡王(名人)をも破ったコンピューターAI PONANZA。

今回でプロ棋士vsコンピューターとしては最後となりますが、コンピューターの力はさらに上に行く事は間違いないです。

数年後にはさらに未知の領域に入って行くかもしれませんね。他分野でもAIという技術は用いられる事が多くなるのではないでしょうか。

日常生活の中でもAI・ロボットという分野が身近にくる日も近いかもしれません。