【 本記事のターゲット 】
- 将棋のプロ棋士公式戦による「角不成」「角成らず」があった試合の詳細を知りたい
- 1983年の王位戦挑戦者決定リーグ「谷川 vs 大山 戦」の詳細を知りたい
今回ご紹介する将棋ですが、プロ棋士公式戦、それも王位戦挑戦者決定リーグ戦で発生した「角成らず」「角不成」をご紹介します。
将棋をされている方だとわかるとは思うのですが...おそらく不成で得するコマといえば、「桂」「香」「銀」くらいしかないですよね。
これらのコマは特殊な動きをする為、成ってしまって「金」の動きになると困るという場面が多いです。
特に桂馬などは多いですかね。いわゆる「ふんどしの桂」と言われていますが、両取りになる場面で不成で進める事が多いです。
さて、そんな将棋の「成り」なのですが...過去プロ棋士公式戦で「角不成」「角成らず」という試合があったんです。
角ですよ?普通成って「馬」にするのが当たり前ですよね。動き自体も+αで上下左右に動けるようになるので、成らないという場面は基本ないはず...
以前AI将棋のバグ(見落とし)を突いて、角不成という試合はあったものの、プロ棋士公式戦であるはずがない「角不成」...
実際にその場面が発生した試合(谷川vs大山戦)に関して、詳しくご紹介します。
目次
将棋プロ棋士公式戦で「角不成」・「打ち歩詰め回避」が生まれた伝説の一戦
1983年王位戦挑戦者決定リーグ「谷川浩司」vs「大山康晴」戦
さて、プロ棋士公式戦で「角不成」が発生した試合ですが、
- 1983年王位戦挑戦者決定リーグ
- 先手:谷川浩司
- 後手:大山康晴
という、とてつもない試合にて発生したんですよね。
両方とも永世名人資格取得者ですし、王位戦の挑戦者リーグの戦いの中で発生したんですよ。
いったいどんな試合だったのか...ポイント毎に棋譜を紹介しつつ、解説してみたいと思います。
mogレベル(アマ二段)なので、もし解説の中で間違っている(もしくは他に良い手がある)部分があってもご容赦下さい...汗。
序盤は大山先生の中飛車、谷川先生の居飛車で駒組みが始まる
では序盤から順番に流れを見ていきましょう。
下記が当時の盤面になりますが、下が先手の谷川先生、上が後手の大山先生となります。
大山先生の中飛車、谷川先生の居飛車という形ですね。
最近ではあまり見られない組み方のような気がしますが、まずはお互いに戦形を整えたという形です。
中盤では飛車角交換となり、お互いに駒の捌きあい
少し手順が進むと中盤となり、40手を超えたあたりで大きく動きます。
上記の通り角飛車交換とお互い大駒を捌きあい、そして相手陣地内へ大駒を進めていきます。
ぱっと見た感じ、谷川先生の方が飛車が捌けている&銀と桂馬の十字飛車になっているので、この後の攻めは進めやすそうに見えます。
終盤、谷川先生が大山先生を詰ましにかかる。連続王手
お互い侵入した陣地から玉・王に迫っていきます。
気がつけば下記局面に。
今度は飛車角がガラッと変わり、谷川先生側が角2枚、大山先生側が飛車2枚という状況になっていました。
が、ここから既に詰み筋に入ってしまい...流石「高速の寄せ」の異名を持つ谷川先生です。
▲8三桂不成、△同金、▲7二銀打、△同金、▲6一金打、△8二玉、▲7二桂成、△同玉、▲6二金、△7三玉、▲6三金、△同玉...
ずっと王手が続いていきます。
▲4三角不成!異例の角不成を指すという珍しい手順が登場
さて、6三の地点に大山先生の玉が移動した後、驚愕の手筋「角不成」が生まれます。
- ▲5二角打
この角が、後に角不成を生み出す事になります。この後の手順は下記の通り。
△6四玉、▲6三金打、△6五玉...
そして...
ここで出ました、▲4三角不成!
6五の地点にいる玉に王手をかけた一手になりますが、え?なぜ4三角不成??
4三角成で馬を作った方が絶対いいのに、わざわざ角不成を谷川先生が指したんです。
▲4三角成だと▲5六歩打で打ち歩詰めになる。打ち歩詰めを回避
けど、これはもちろん読み筋に入っていて...
仮に▲4三角成で馬を作った手順を見ていきましょう。
△5四歩打、▲6六銀打、△同と、▲同歩、△5五玉...このように進んでいくのですが、次の手が問題なんです。
そう、この後手駒には「歩」しかありませんので、▲5六歩打という手順になるのですが...
これ「反則負け」になるんですよね。よく盤面を見てみて下さい。
なんと、大山先生の玉がこの歩打ちによって詰んでしまっているんです。
そして、この手順は持ち駒の歩を打って詰ましてしまったので、そう、「打ち歩詰め」という反則になるんですよ。
▲4三角不成→▲5六歩打で谷川勝利。投了図以下の詰み手順を解説
という事で、この手順を谷川先生は既に読み切っていて、この打ち歩詰めを回避する為に、あえて「4三角不成」を指されたんですよね、
いやぁ、なんともすごい。mogレベル(アマ二段)ではここまで読まずに普通に角を成ってしまいますよ...苦笑。
4三角不成の後の手順は先ほどと同じで、
△5四歩打、▲6六銀打、△同と、▲同歩、△5五玉、▲5六歩打
この歩打ちの後、まだ逃げるスペースはあったのですが、ここで大山先生投了となり、谷川先生の勝利となりました。
角で金を取る、左の角を取れば即詰み
さて、せっかくなので角不成→▲5六歩打の投了図以下の詰み手順を検証してみましょう。
▲5六歩打、△4四玉、▲4五歩打、△3三玉。
ここまでは問題なく進みますよね。この後の詰み手順をいろいろ検証してみましょう。
まず、攻め手の谷川先生側は▲2三角成と金を取ります。ここも間違いないかと。
この後仮に左側の角を取る感じで△4三玉と動きます。すると...
そう、▲3三金打までで詰みになりますよね。なので、右側の馬を取るしか逃げ道はないという状況になります。
右の角(馬)をとった場合、上に行っても下に行っても詰み
では右側の馬をとった場合の手順も見ていきましょう。その場合、▲3四角成と馬を作って王手をかける形になります。
その後の手順で、仮に上側に逃げようとした場合...
▲3四角成、△2二玉、▲2三金打、△2一玉、▲2二歩打、△1一玉、▲1二金
上記までの詰みになりますね。
では下に玉が逃げた場合はどうなるのか...同じく▲3四角成から見ていきましょう。
▲3四角成、△1四玉、▲2四金打、△1五玉、▲2五馬
上記までの詰みとなりますね。
という事で、右側に玉が逃げて行っても詰みとなっています。
右の角(馬)をとった後、左上に逃げても詰み
じゃあ最後、左上に逃げた場合はどうなるのか、同じく▲3四角成から見ていきましょう。
▲3四角成、△3二玉、▲2三金打、△4一玉、▲5二金
上記までの詰みとなりますね。
83手から105手まで王手をかけ続け、さらに詰みまでの手順を考慮すると、なんと30手詰めにもなる手順になるんですよ。
さらに、その中には先ほど紹介した角不成で打ち歩詰めを回避しているという手順が含まれている為、プロ棋士の凄さがわかる一局となりますよね。
ということで、今回は谷川 vs 大山 戦で生まれた「角不成」に関して、棋譜と投了後の手順などを含めて詳しくご紹介しました。
プロ棋士戦で生まれた「角不成」という手順を詳しく見てみたい、研究したいという方は、本記事を参考にしてみて下さい。