妙手3五銀!「升田幸三」対「大山康晴」第30期名人戦第3局を棋譜付き解説

2018年1月28日

【 本記事のターゲット 】

  1. 升田幸三 vs 大山康晴の対局内容を知りたい
  2. 絶妙手「3五銀」が指された名人戦の内容を知りたい

今回ご紹介するのは、1971年の名人戦第3局「升田vs大山戦」のご紹介です。

「永久に残る妙手」。将棋プロ棋士界の中で、こう呼ばれているのは下記3つと言われています。

  • 中原 vs 米長 名人戦の「5七銀」
  • 升田 vs 大山 名人戦の「3五銀」
  • 羽生 vs 加藤一二三 NHK杯戦の「5二銀打」

これらの手は素人がパッと見ただけだとさっぱり分からないのですが、思惑を読み解いて行くと何とも恐ろしい手なんですよね...

NHK杯戦の羽生さんが放った5二銀などは解説者でもしばらく分からなかった&理解出来なかったくらいなので...(米長先生は一瞬で分かった&大声をあげた事で有名)

下記に別記事にて中原先生の5七銀と羽生先生の5二銀打も紹介しているので、良ければ見てみて下さい。

という事で、今回は升田先生が名人戦で指した伝説の妙手「3五銀」が生まれた対局内容を棋譜付きで詳しくご紹介します。

mog目線(アマ二段レベル)なので、多少解説内容等が間違っていてもご容赦下さい。

絶妙手「3五銀」が生まれた対局詳細をご紹介

対局名

1971年4月30日 第30期名人戦七番勝負 第3局

対局者

先手:大山康晴

後手:升田幸三

攻めの升田、受けの大山ということで生涯のライバルとしても非常に有名な二人、大山先生は輝かしい成績を残し、升田先生は新手一生・さまざまな戦法や新手を創案しました。

現代将棋でも「升田幸三賞」という新手、妙手を指した者や、定跡の進歩に貢献した者に与えられる賞に名前が付いているくらいですので...

そんな二人が将棋界最高峰の名人戦で戦いを繰り広げた際、第30期名人戦の第3局で升田先生が指されたのが伝説ともなっている妙手「3五銀」になります。

これだけみてもこの対局の良さが中々伝わらないので、実際に初手から棋譜を並べて下記に所々棋譜付きで解説してみます。

升田対大山、妙手「3五銀」が生まれた第30期名人戦第3局の対局内容を記譜付き解説

序盤は升田式石田流

先手が画面下の大山先生、後手が画面上の升田先生になります。

序盤は当時名人戦で升田先生が連発で採用していた「升田式石田流」&大山先生の居飛車となります。

なかなかこの形って怖いんですよね...

mogはビビリなので、こうなる前に角道を停めて飛車を浮くか角を上がるかして2四の地点を受けてしまいます。

が、升田式石田流はこの辺りは受けません。そのまま突っ切ります。

一見2三の地点が受からないように思うのですが...△8八角成、▲同銀、△2二飛、▲2三歩打、△1二飛...

いやぁ、序盤からここまで踏み込んだ指し方はなかなか出来ないですよね。ギリギリで受かっている状況ですが、升田先生にとってはこれが普通なんでしょうか。

その後△3二金と上がった後、再度△2二歩と合わせて歩を相殺し、飛車の位置を2二の地点に戻します。

気がつけば普通の状態に戻っている...

ここまで先読みして最初から踏み込んでさせる所(普通の人は指さないような手)がさすがというか、升田将棋に人気がある理由が分かるような気がします。

中盤升田先生が攻めた後、大山先生の受け&反撃を食らうが...

この後升田先生が角を打って上手く駆け引きをしながら、下記のように垂れ歩をして大山先生の陣地内をせめて行きます。

こちら▲同飛だと△4七銀打が痛打になるのでこの歩は取れず、△2九飛と下段に飛車を引きます。升田先生はそれでも攻めを継続し、△4七銀と打ち込んで行きます。

さらにこの後それぞれの駆け引きが多少あり、下記のように金の頭を狙う&桂馬を銀でもぎ取ろうという作戦、△3四歩と突いて行きます。

▲同歩、△3五歩打と進み、▲同金、△3七銀不成と桂馬を取る事に成功、飛車が逃げた後、さらに金を狙うかのように△4六銀不成、▲2四金と進みます。

が、ここまでせめて行くと、逆に▲2四金が前進して升田先生陣地がちょっと苦しく見えるもの事実かと...

升田先生も角で金をさばこうと△1三角と金にぶつけて行きますが、大山先生陣地にと金はあるものの、これだけ見ると飛車角が歩と金で抑えられているような形になっているので桂損ですが、大山先生の方が指しやすいかも...

この後升田先生は大山先生の玉頭に狙いを変更し、△8四桂打と打ちますが、大山先生が妙防の一手▲7九角を指します。

桂馬の両方を守りつつ、4六の銀を狙い、さらに2四の地点に紐を付けているといった攻防手となっています。

伝説の妙手「△3五銀」

このままだと4六の銀もタダで取られてしまいますし、7六の地点の桂馬ももぎ取られてしまう...そしてなにより、この状態だと升田先生側の飛車と角が全く働いていない状態...

振り飛車党の方であればよくご存知かと思うのですが、例をあげると現代将棋では久保先生が「捌きのアーティスト」という異名を持っていますが、振り飛車側は飛車角が上手くさばければ基本OKなのです。

升田先生側の飛車角が抑えられていますが、これを上手くさばく事が出来れば一気に形勢は逆転しますが、この状態だとなかなか上手く捌く手筋が見つけられない...

そんな状況の中、升田先生が指した手が

△2六歩打、▲同飛、△3五銀!

ん?これはただなんじゃないか...

3七の地点に銀不成と指すのであれば分かるのですが、△3五銀?まぁ当然△同角しかないですよね。

タダですし、このままだと飛車と金に当たっているので...

がしかし、この手によって大山先生の角を引きつける事が出来、この状態で△3四金!

これ実は▲同金と取ってしまうと、△3五角、▲同金、△5九角打と見事に王手飛車が掛かってしまうんです。

なので同金とは取れず...一旦大山先生は▲5七角と下がります。

そして、△2四金、▲3六歩打、△2五歩打。

あれ?タダであげたはずの銀が金に変わっていて、気がつけば升田先生の飛車が行きかえり、逆に大山先生の飛車が動きを失うような展開に...

何とも恐ろしい一手「△3五銀」、たったこれだけで一気に形勢が逆転してしまいました。

その後飛車は下がるしかありませんが、升田先生の飛車は大山先生の陣地内に入り、龍を作る事が出来ました。

しかし、この展開から大山先生が脅威の粘り&受けを連発していきます。

終盤は互角まで形勢を持って行く

△3五銀という好手が飛び出し、形勢は升田先生に傾いたかと思われました。

が、その後大山先生の正確な受けにより、下記のように大山先生の飛車が蘇り、手駒も再度互角近くまで持ち直して行きます。

この後、遂に大山先生の飛車が升田先生の陣地内に入って龍を作る事に成功します。

気がつけば、今度は升田先生の龍と馬が自陣内に入ってしまっていて、△5九の香車を拠点に逆に攻められる展開に...

この後、升田先生の龍と大山先生の馬を交換する展開になり、大山先生側の守りががっしり堅くなってくる展開に...気がつけば玉の回りに金銀3枚。

しかし、この後升田先生が再度飛車と角を交換し、最後は飛車による華麗な寄せ筋を見せてくれます。

最後は升田先生の華麗な寄せ

飛車角を交換し、5九の香車を浮かせた後、5九の地点に飛車を打ち込みます。

▲6九銀と下段を受けますが、△5七金打、▲7九銀打、△5五馬、▲5六歩打、そしてこの手が素晴らしいです、△6九飛成!

これ▲同金と取ると、△7七桂成から詰んでしまいます...

一旦▲8四桂馬と王手をかけますが、△9二玉とかわした後、受けがないと悟ったと思うのですが▲6九金と取ってしまいます...

△7七桂成、▲同桂、△同馬、▲同玉、△8五桂打...

こちらを見て、210手にて大山先生の投了、升田先生の勝利となりました。

投了図以下ですが、仮に玉が下段に下がる場合、

△7七銀打、▲8九玉、△8八金打、▲同銀、△同銀成、▲同玉、△7七銀打、▲8九玉、△8八銀打、▲9八玉、△9七桂成までの詰み。

上に玉が逃げる場合は、

▲8六玉、△7七銀打、▲7五玉、△8四銀打、▲6四玉、△5四金打までの詰み。

または玉が左上に逃げた場合、

▲8六玉、△7七銀打、▲9六玉、△9四香車打、▲9五桂打、△同香、▲同玉、△8四金打、▲9六玉、△9五銀打までの詰み。

210手という大熱戦になった升田 vs 大山 の名人戦第3局。

△3五銀が有名なので、どうしてもそちらにフォーカスしがちですが、そこに至までの大山先生の受け&反撃、△3五銀以降の升田先生が優勢になった後の大山先生の正確な受けと反撃は本当に見応えがありましたね。

今回ご紹介した升田先生の絶妙手「3五銀」ですが、対局から既に半世紀近く時が経過しているのにも関わらず、未だにいろんな場面で紹介されている&語り継がれている事でも有名です。

最近は藤井聡太四段の29連勝や羽生永世七冠などで盛り上がりを見せる将棋界ですが、過去の対局も数々の名局がありますのでたまに振り返ってみるのも面白いですよ。