羽生マジック8六銀打!「羽生善治」対「郷田真隆」将棋NHK杯準決勝を解説

2017年3月5日

【 本記事のターゲット 】

  1. 将棋の名局を知りたい・学びたい
  2. 羽生マジックを見てみたい

先日は羽生 vs 加藤戦の「5二銀打」、羽生 vs 中川戦の「NHK杯に残る大逆転」といった「羽生マジック」をご紹介致しました。

下記がその記事となりますので、良ければこちらも合わせて見ていただきたいのですが...

今回は別の「羽生マジック」をご紹介します。

mog自身も生でNHK杯戦を見ていて鳥肌が立った一局、ご紹介するのはまだ比較的新しい2013年の第62回NHK杯戦準決勝第2局、「羽生」対「郷田」戦です。

終盤に放たれた羽生マジック「8六銀打」、解説者の先崎九段も「羽生さんはやっぱり天才」と絶賛していました。

実際にどのように生まれたのか、当時の対局を棋譜付きでわかりやすくご紹介致します。

羽生マジック「8六銀打」が生まれた「羽生 vs 郷田」対局状況を紹介

対局名

第62回NHK杯戦準決勝第2局(2013年)

対局者(タイトルは当時のもの)

先手:郷田真隆 棋王

後手:羽生善治 三冠

解説者(段位は当時のもの)

先崎 学 八段、矢内理恵子女流四段

羽生マジック「8六銀打」、第62回NHK杯戦準決勝第2局を棋譜付きで解説

序盤の戦型は居飛車 vs 中飛車

前回と同様にわかり易く将棋盤を使って解説していきたいと思います。

mogレベルの解説なので、多少間違っていてもご容赦下さい。

先手が画面下側となる郷田さん、後手が画面上側になる羽生さんです。戦型は郷田さんの居飛車、羽生さんの中飛車という型でスタートしました。

当時お互いタイトルホルダー+NHK杯の準決勝という事もあり、非常に多くの将棋ファンの方がこの対局をテレビで見ていたかと思います。

▲5二銀打、羽生さん側が苦しい展開に

最初はこま組から長引くかなと思っていたのですが...中盤いきなり激しくなります。

右側の銀がお互い交換となり、51手目の郷田さんの▲5二銀打が華麗に決まります。5二銀打って聞くと、羽生 vs 加藤戦を思い出しますね。

これは△同飛車ととると、▲4一銀打で飛車金両取りが決まってしまいます。しかし、飛車を逃げているようでは攻めも続かないですし、△5五角と出てこられる事も考えられます。

なので羽生さんがとった手は△同飛車。

しかしその後、▲4一銀打、△5四飛車、▲3二銀不成と進みます。4三の地点に銀が来られるとほぼ終了に近い状態になりそうなので、▲5二銀打を受けますが...

この時点で結構羽生さんが苦しいように見えます。

解説の先崎さんも「羽生さんはこうなる事を読んでいたとは思うんですが...」というような発言もしており、言葉の裏には劣勢になっているような雰囲気が視聴者側にも伝わってきます。

当然、mog自身もそのように思っていました。

中盤〜終盤戦へ、苦しいと思われた展開から徐々に互角の勝負へ

しかしさすが羽生さん、上手くコマをさばき合って上記図の所まで持って行きます。

盤上を見るとお互い譲らずという状況ですが、手駒を見るとまだ差がありそうです。

形勢が逆転した?解説者の先崎九段も悩む展開に

しかし、ここで郷田さんの攻めが上手く続きません。

盤面上では羽生さん側が金しか手駒がないので、まだ数手は稼げるもののあまりゆっくりは出来ないという事で、なんとか早く寄せ筋に持って行こうというのは見ていて伝わってきたのですが...

なかなか羽生さん側の金銀を剥がす事が出来ず、馬も切って飛車を打ち込み上記図まで持って行きます。

解説の先崎さんも「今指した一組二組の手がものすごい悪い手になる」「形勢は逆転したと思うんですけどね...」と仰っていました。

寄せ筋に持って行く中、一手羽生さん側に与えてしまい、▲5七角成とされた後寄せ筋に持って行く為に馬を切って飛車打ち込み、△5三飛車成となった局面です。

5七の馬にも効いてますし、これはもう郷田玉を寄せるしかないという所...しかし、解説の先崎さんも矢内さんも詰みは見つけられず...

脅威の8六銀打!羽生マジック炸裂!先崎九段「羽生さんは天才です」を連呼!

まずは羽生さん側の龍を切りなんとか寄せに持って行こうとします。

▲5八龍、△同金、▲6九角打、△7七玉...

ちなみに▲6九角打の所で△同玉ととるのは△7九金打、▲5九玉、△4七桂打で詰みになります。(▲同金だと△5八銀打、△4九玉だと▲3九馬で詰みです)

なので△7七玉と上がるしかないのですが...※▲8八玉は△7九馬(同玉は7八金打で詰み)、▲7七玉、△7八角成、▲8六玉、△8五金打、▲同玉、△8四銀打、▲8六玉、△7四桂打、▲9七玉、△8八馬で詰みです。

この状態でなかなか詰みが見つからず...先崎さんも矢内さんもまずは桂馬を打って玉を上に...その後...ん?う〜ん?と悩む先崎さん...

その悩んでいる中、羽生さんが時間いっぱい使って指した手が「8六銀打!」

銀のただ捨て...昔の羽生 vs 加藤戦を思い出させるような銀ただ捨て...

解説の先崎さん少々考える...

  • ほう、銀からですか...銀から...
  • ...なるほど、最後に△7二桂打が出来ると言っているんだ!これは気が付かなかった!
  • 羽生さん天才です!いや、昔から天才なのは分かっていたんですが...
  • 天才の詰みです。これは...

少し手順を解説すると、▲同歩は△8七金打で詰みなので▲同玉ととるしかないのですが、△7四桂打、▲7五玉、△6六馬、▲6四玉、△7二桂打とすすみます。

先ほどの先崎さんの解説ではこの桂打のことを言っていたんですね。※下記図参照

ちなみに少し解説すると、まず△7四桂打の所で▲9七玉と逃げればどうなるのかという部分ですが、△8五桂打、▲9八玉、△8六桂と進めて▲同歩なら△8七金打、▲8八玉なら△7八角成で詰みとなります。※下記図参照

ちなみに本譜△7二桂打からは▲5四玉、△4四金打、ここで郷田さん投了。

以下▲同龍、△同馬、▲6五玉、△5五飛打で詰みとなります。

先崎さん羽生さんを絶賛!

「いや、後からこういった詰み筋を見つけたというのはよくあるのですが...」「このNHK杯という短時間の中でこの詰みを発見できるなんて」「いや、天才です」と...

「この銀を打つという発想が普通ありえない、思いつきにくい」「桂馬より銀の方がいいという理屈が普通考えられない、いや、天才です」と...

多分10回近く羽生さんの事を「天才」と仰ってたかと。

郷田さんも途中まで優勢なのはご自身でも把握しており、ほぼ勝ちを確信していたんだと思います。

「8六銀打」と打たれた時、テレビには音声は入っておりませんでしたが、はっきり映像で「え!?」という表情が映っており、しばらく考えた後表情がどんどん曇って行き、最後はがっかりといった感じに...

この後、決勝戦に羽生さんは進む事になります。しかし決勝戦では渡辺竜王に負けてしまいNHK杯は4連覇という記録で終了します。

ちなみに2008年〜2011年度まで4年連続で優勝というとんでもない記録を羽生さんはもっているんです。

将棋ファンを魅了し続ける羽生さんの対局、その中でひと際光っているのが「羽生マジック」と呼ばれる終盤に放たれる絶妙手。

なんど棋譜を見ても素晴らしいの一言です。

今後もこの羽生マジック、いつ飛び出すかどうか分からないので注目して見て行きたいと思っています。