【 本記事のターゲット 】
- 藤井聡太プロの驚愕の一手「▲4一銀打」の対局を詳しく知りたい
- 第34期竜王戦2組ランキング戦準決勝(2021年3月23日)の内容を詳しく知りたい
今回は2021年3月23日に行われた竜王戦2組ランキング戦準決勝「藤井聡太二冠」vs「松尾歩八段」(段位・タイトルは当時のもの)を詳しくご紹介します。
いやぁ、久々に妙手・絶妙手を見ることが出来ましたね。
- 人類には普通指せない類の手
- 棋史に残る絶妙手
- 気付いても指せない手
- この手を指せる人類がいるなんて...
他の将棋プロ棋士でも、上記のような言葉を言わせてしまうようなすごい手が生まれました。
それが「▲4一銀打」になります。
人間・プロ棋士ではなく、「将棋AI」がこの手を最善手をして示していたのですが、藤井聡太プロはこの手を実践で指したんです♪
ということで、どんな将棋・対局だったのか、棋譜付きで分かりやすく解説してみたいと思います。
mogの将棋レベル(アマ二段レベル)なので、少々間違っていてもご容赦下さい。
その他、個人的にプロ棋士の対局で面白いと思ったものを下記別記事にてまとめていますので、気になる項目あればあわせて見てみて下さい。
- 「7七同飛成」、藤井聡太驚愕の一手・飛車切り捨て。プロ絶賛手筋を棋譜付き解説
- 「6二銀」、藤井聡太驚愕の一手!竜王戦4組ランキング「藤井」対「中田」を解説
- 5二銀打!羽生マジック炸裂。何が凄かったのか「羽生善治」対「加藤一二三」NHK杯戦を解説
- 羽生マジック炸裂&ひふみん驚愕!羽生vs中川第57回NHK杯戦を解説
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人間には指せない手「4一銀打」。「藤井聡太」vs「松尾歩」竜王戦2組ランキング戦準決勝を棋譜付きで詳しく解説
序盤は横歩取りの展開、互いに角交換実施
先手が藤井聡太二冠、後手が松尾歩八段となります。(段位・タイトルは当時のもの)
画像の下が先手(藤井プロ)、上が後手(松尾プロ)となります。
序盤の戦型としては、急戦模様でもよく知られる「横歩取り」となりました。
先手の藤井聡太プロが3筋の横歩を飛車でとり...
しばらく手が進むと上記の通り角交換といった流れで進んで行きました。
中盤は激しい攻防戦。急戦模様へ突入
そして先ほども記載した通り、横歩取りは急戦へよく発展することでも知られている戦法です。
お互い激しいやりとりが続き、上記の通り「▲4六角打」と藤井聡太プロが相手の金に標的を合わします。
松尾歩プロが歩で角道を止め、藤井プロは金先に歩を打ち込みます。
ここで松尾プロが踏み込みます。金が取られる状態を無視して「△3六歩」と進みます。
藤井プロは「▲2四歩」と金をとり、上記図の通り△3七歩成と金と桂馬の交換となりました。
が、すぐさまに取った桂馬を使って飛車銀両取りを仕掛けます。非常に激しい戦いがくり広げられています。
藤井聡太プロの手がピタリと止まる。人には見えない手が見えている模様
お互いにコマを取り合い、2筋・3筋が捌けそうな感じになってきました。
上記のような感じですね。
「△3六銀打」と藤井プロの飛車にあたっていますので、▲3五飛と寄ったのですが...
これは将棋初段レベルであれば見える手筋かと思いますが、上記の通り「△4四角打」が結構厳しい手。
飛車にあたっているのはもちろん、本当の目的は「8八」の地点ですよね。角と飛車、両方の大駒があたっていますので、一気に8筋を突破されそうな勢いです。
そこで藤井プロは「▲3四飛車」と上がります。そうすることで、仮に角から8八の地点に攻め込んできたとしても、8四の地点にいる飛車が浮く形になるので捌いてしまおうといった戦法ですね。
その後3七の地点で駒の捌き合いがあり、いよいよ最終局面が勃発します。
△8八角成。
もうこれは▲8四飛と飛車を捌いて、一気に終盤決戦か...と思ったのですが、この局面で藤井聡太プロの手がピタリと止まります。
プロ棋士の解説でも、「将棋を知っている人が100人いたら100人飛車を取る場面」と言っていたのですが、なぜかこの場面で長考...
いったい何を考えているんだろうか...当然時間を使うと残り時間が少なくなるので、考えることもなく指せる場面で時間を使うのはもったいないのですが...
藤井聡太プロには、他の人には見えない手・未来像が見えているんだろうか...
衝撃の「▲4一銀打」。棋史に残る絶妙手・人間には指せない手
ここでリアルタイムで中継していた「ABEMA将棋チャンネル」がざわつきます。
AIが示している手が「▲8四飛」ではないんですよ。最善手は何と「▲4一銀打」。
解説をしていた将棋プロ棋士などが
- AIの読み筋は一理あるが、ただで銀を捨てる手はいかがなものか。
- 失敗したら負けに直結するひどい手になることも考えられる。
- 飛車が取れるのだから、わざわざ銀をただで捨てることはないだろう。
- いくらなんでも、人間には指せない手
という感じで、解説者でも盛り上がりを見せます。
そして藤井聡太プロが長考すること59分...考え抜いた先に指した手が下記となります。
「▲4一銀打」。
解説者も将棋ファンからもウェブ上などで一斉に歓声が上がります。
- 将棋AI、人間には気付けない手を示すことが多々ある
- 人間には到達出来ないレベルがある
- この手はまさに人間が到達できない領域のもの
- 普通ではない
将棋が分かる方であれば、この理由は何となく分かるかと思います。そう、右側に玉をいかせないように壁を作って攻めを早めるという手なんですよね。
同金ととれば、4筋に金銀が壁となり、その後8四飛として左から攻めていくという流れです。
がしかし、そのために銀をただ捨てするとは...藤井玉も決して安全ではなく、3八の地点に金を打たれると必至がかかる局面。
この状態で▲4一銀打はもはや人間が指す手ではないということです。
TIPS:▲4一銀打に△同玉の場合はどうなるのか。手順を解説
さて、では4一銀打の後、どのように手順は進んでいくのか。
まず本譜ではないパターンから解説していきましょう。本譜は後ほど紹介しますが、「△同金」となります。
△同玉の場合、下記の通り▲3二金打と続きます。
飛車が効いていますので、玉は5二の地点に逃げるしかありません。
そうやって玉を再度中央に戻し、その後「▲8四飛車」と回ります。すると、先ほどとおなじく右側に壁が出来ますので、攻めが断然早くなるという考え方ですね。
その後将棋プロ棋士の間でも検討されていましたが、一例ですが上記のような感じで▲3四桂と打ち、詰めろを続けて指し続けることが出来るとのことです。
なので、松尾プロも3八の地点に金を打ちたいのですが、打ってしまうと自玉が詰んでしまうといった形になるので、本譜は同玉とは取らず、同金と取りました。
本譜は△同金と進む。▲7五桂打からの寄せが厳しい
では▲4一銀打のあと△同金の場合、本譜はどのように進んで行ったのか。
△同金の後、下記の通り▲8四飛車と浮いた飛車を藤井プロが取りました。
これで先ほど解説した通り、右側に金銀の壁が出来ましたよね。
その後△7八馬と銀を取り、次に指した手が「▲7五桂打」となります。
上記のような感じ。
これも放置は出来ないですよね。放置して△3八金と打つと即詰みになります。
TIPS:▲7五桂打を放置していると即詰みとなる。手順解説
ちょっと分かりにくいので、どうやったら即詰みになるのか、簡単に解説します。
仮に先ほどの場面で△3八金と打った場合、▲8二飛成とタダで飛車を捨てます。
△同銀となりますが、その後上記のように▲6四桂打とします。
△同歩の場合、7二の地点に飛車を打ちます。
合駒をしても6三の地点に金を打てば、合間効かずとなりますので、玉は逃げるしかなく、最終的に▲6二金で詰みという形になります。
最後まで冷静な手順で寄せ切り、75手で藤井聡太プロの勝ち
ということで、松尾プロは「△5一金」と先ほど▲4一銀打で作られた壁を再度壊しにかかります。玉の逃げ道を確保するような感じですね。
しかし、それでも関係なく「▲6三桂成」と進めます。
逃げると「▲2三歩成」から挟みうちになりますので、△同玉ととります。そして「▲6六飛打」と飛車角の効きを生かして追い討ちをかけます。
いったん「△6五歩」と打って飛車を浮かせた後、△5二玉と逃げますが、▲6四桂打とさらに攻めます。
これ、△5一玉と逃げるとやはり▲2三歩成からの攻めが厳しいので...
本譜は△6三玉とあがりますが、▲8一飛成と桂馬を補充します。
ここで松尾プロが負けを悟り...
△6八金打、▲4一玉、△2七銀打と形作りにはいります。
そして75手目となる▲7五桂打と上記棋譜となったタイミングで松尾歩プロが投了、藤井聡太プロの勝ちとなりました。
TIPS:投了図以下の詰み筋・手順を解説
ちなみに投了図以下を解説いたします。
まず▲7五桂打に△6二玉と下がった場合、
上記の通り▲6三金打、△6一玉、▲7二桂成までで詰みとなります。
△5四玉と上がった場合は簡単ですね。
▲5五金打で即詰みです。
では△7四玉と上がった場合はどうなるのか。
▲8三龍、△6五玉、▲6六金打、△5四玉、▲5五金まででやはり詰みとなります。
結果的には▲4一銀打から詰めろをずっと続ける形となり、この絶妙手がいかに攻めを早くしたのかがよく分かりますよね。
最後に
今回は2021年3月23日に行われた竜王戦2組ランキング戦準決勝、「藤井聡太二冠」vs「松尾歩八段」の「4一銀打」に関して詳しくご紹介しました。
人間には指せない手、それを指してしまう藤井聡太プロ。まだまだ若いので、今後の活躍が本当に楽しみです。