【 本記事のターゲット 】
- プロ棋士の対局で詰みに気付かず投了した対局内容を詳しく知りたい
- 第76期順位戦C級2組10回戦 増田五段vs神谷八段の対局内容を知りたい
今回はプロ公式戦の順位戦にて発生した異例の出来事「相手玉の詰みに気付かず、そのまま投了した」対局(増田vs神谷)を詳しくご紹介します。
目次
将棋プロ公式戦で詰みに気付かずに投了した対局詳細をご紹介
対局名
第76期順位戦C級2組10回戦(2018年年)
対局者(段位は当時のもの)
先手:増田康宏五段
後手:神谷広志八段
増田五段は藤井聡太六段(当時四段)が29連勝を達成した時の対局者で、若手で将来有望視されている棋士、そして神屋八段は藤井六段が29連勝を達成する前の連勝記録保持者28連勝を達成した棋士でもあります。
2018年3月15日から16日未明にかけて行われた将棋の公式戦となり、勝利目前の神谷八段が相手玉の「詰み」に気づかず、敗北を認めて投了してしまう出来事が発生しました。
15日は午前10時に始まったのですが、お互い拮抗し午後10時45分に「千日手」が成立。30分後に指し直し局が始まった後お互い疲れきった状態で発生した出来事になります。
第76期順位戦C級2組10回戦「増田五段」vs「神谷八段」の対局内容を解説
戦型は角交換&神谷八段の向かい飛車
では早速対局内容を棋譜付きでご紹介してみたいと思います。画面下が先手の増田五段、画面上が後手の神谷八段になります。
序盤角交換後、後手の神谷八段が飛車を振って向かい飛車模様となりました。
千日手が成立した後の再対局なので深夜におよび、お互いかなり疲労している状態だったんじゃないかなと思います。
終盤神谷八段側の玉に詰めろがかかる
途中を解説していると少し長くなるので、終盤近くから解説します。終盤ですが、下記状況のようにお互い詰んでもおかしくない状況になっています。
増田五段は飛車角を切って積極的に神谷八段の玉周りを包囲して逃げ場を無くし、▲6五金打の詰めろをかけている状況です。
この時点で既にお互い持ち時間を使い果たし、1手1分未満で指さないといけない状況です。
千日手指し直しにより疲れがピーク&持ち時間もなくなりお互いかなり辛い状況なんじゃないかと...
増田五段が▲5三飛打を指して神谷八段が投了するが....
この後、△7九角成、▲同馬、△同飛成、▲同玉、△3九飛打、▲6九金打と手順が進みますが、ここで詰みはないと神谷八段が判断したのか△5五歩と玉の逃げ道を作ります。
後で分かるのですが、実はこの手がめちゃくちゃ好手になっていたんですね...しかしこの好手にすら、増田五段も神谷八段も気付いておらず...
▲5三飛打と受け無しの詰めろを増田五段が指します。
そして秒読みのなか刻々と時間が過ぎ...
午前2時7分、この手を見て1分間考えた神谷八段は頭を下げ、負けを認める「投了」の意思を示してしまいました。
下記のように、仮に△5四銀と受けたとしても▲6三金、△同銀、▲5五飛成で即詰みです。
が、しかし...
この後感想戦にてこの投了図では実は増田五段側の玉が詰んでおり、正しく指せば神谷八段の勝ちだったんです...
何て事だ...プロ棋士の世界でもこんな事が起こるんですね...
勝利を自ら逃したことを知らされた神谷八段はコメントとして「一瞬だけチャンスが来たのか。詰みで投了はひどすぎるね」と言って、頭を抱えたようです。
また増田五段も詰みの手順には気づいていなかったようで「詰まされても文句は言えないと思っていた。本当に良かった」というコメントを対局後に残しています。
増田玉は詰んでいた、投了図以下解説、△7八銀打が好手♪
という事で、投了図以下どうやったら増田五段側の玉が詰んでしまうのか、分かりやすく手順を追って解説してみたいと思います。
mogレベル(アマ二段)の解説になるので間違っていてもご容赦下さい。
投了図以下ですが、神谷八段が△6九飛成と飛車を切って金を取ります。▲同玉とされた所で△7八銀打が急所!
もちろん逃げていては詰みますので▲同玉しかありませんが、この後△6七金打が決め手となります。
この後玉が逃げるか、金を取るかで手順が変わってきますので、まずは玉が逃げた手順をご紹介します。
△6七金打に玉が逃げた場合
玉が逃げた場合ですが、△7九角打とします。
同玉なら△7八金で詰みなので▲9八玉と逃げるしかないのですが、△9六香打が決め手です♪
玉の逃げ場がないので合い駒するしかないのですが、手駒は「飛車」か「角」か「銀」しかありません。歩は二歩なので打てませんよね...
この合い駒がまたピッタリで、どの駒を打って合い駒しても詰んでしまうんです。
飛車を合い駒にした場合...
まずは▲9七飛車打を合い駒をした場合ですが、△同香、▲同桂、△8八金打、▲同銀成、△同角成、▲同玉、△6八飛打と進めば合い駒効かずで増田五段側の玉が詰みとなります。
角を合い駒にした場合...
次に▲9七角打と合い駒にした場合、△同香、▲同桂、△8八金打、▲同銀、△同角成、▲同玉、△7七銀打、▲9八玉、△8九角打、▲同玉、△7八金打、▲9八玉、△8八銀成までの詰みとなります。
銀を合い駒にした場合...
こちらは先ほどの角合いとほぼ手順は一緒ですが、▲9七銀と合い駒した場合、
△同香、▲同桂、△8八金打、▲同銀、△同角成、▲同玉、△7七銀打、▲9八玉、△8九銀打、▲同玉、△7八金打、▲9八玉、△8八銀成までの詰みとなります。
という事で、△6七金打に玉が逃げると詰んでしまう事が分かるかと思います。
△6七金打に▲同玉とした場合
玉が逃げると詰んでしまうので、△6七金打に▲同玉ととった場合どうなるのか...を検証してみたいと思います。
▲同玉には△5六角打がピッタリ♪ここで先ほど重要だと言っていた▲5五歩が生きてくるんですよね。この歩がなかったら角は打てない&離して打っても合い駒されてしまうので...
△5六角打後ですが、
▲6八玉、△7八金打、▲5九玉、△5七香打で詰みとなります。
合い駒しても△5八香成で詰みですし、▲4九玉と逃げても△3八とでピッタリ詰みとなります。
色々なパターンを見てきましたが、合い駒を全て使った綺麗な詰み筋という事が分かるかと。
がしかし、この詰み筋には1分将棋の中ではプロ棋士といえども瞬時には分からなかった様ですね。
ということで、今回はプロ棋士公式戦で詰みがあるのに投了してしまった対局「第76期順位戦C級2組10回戦 増田五段vs神谷八段」をご紹介しました。
詰みを見逃した...といっても対局内容はめちゃくちゃ素晴らしいですし、詰み筋は本当に綺麗なので興味がある方は是非盤面で並べて検証してみて下さい。