【 本記事のターゲット 】
- 羽生マジックが炸裂した内容を見たい
- 加藤一二三九段が解説していたNHK杯「羽生vs佐藤戦」の内容を知りたい
今回ご紹介するのは、2011年2月20日のNHK将棋トーナメント「羽生 vs 佐藤」戦のご紹介です。
「羽生マジック」
将棋ファンであれば誰もがこの言葉を知っているかと。
終盤近くで放たれる絶妙手で、まるでマジックを見ているかの如く一気に優勢&詰みに持って行く誰も気が付かない魔法の手筋の事を指します。
一番有名なのは羽生vs加藤戦で指された「5二銀打」かと思いますが、それ以外にも数々の羽生マジックを打ち立てています。そのうちの1局が今回ご紹介する内容です。
そして何故か羽生マジックが起こる時には加藤先生が対局者や解説をされている時が多い...苦笑。
加藤先生の反応も面白いので、その辺りも含めて詳しくご紹介します。
目次
「9六金」が生まれた対局詳細。「羽生」vs「佐藤」NHK杯将棋トーナメント
対局名
第60回NHK杯テレビ将棋トーナメント 準々決勝第3局
対局者(段位・タイトルは当時のもの)
先手:羽生善治三冠(名人、王座、棋聖)
後手:佐藤康光九段
解説者(段位は当時のもの)
加藤一二三九段、矢内理絵子女流四段
第60回NHK杯テレビ将棋トーナメント準々決勝第3局対局内容を解説
戦型は中飛車&相穴熊
という事で、実際に第60回NHK杯テレビ将棋トーナメント 準々決勝第3局を解説してみたいと思います。
先手が羽生先生で画面下、後手が佐藤先生で画面上になります。
序盤佐藤先生が中飛車を選択し、そのまま玉の囲いを穴熊に、羽生先生側も玉を穴熊としてがっしりした展開となりました。
結構長期戦になるのかな...と思いきや、仕掛けタイミングは意外と早い展開となっていきます。
中盤縦のラインからお互いに穴熊を崩しにかかる
穴熊は横から崩すには相当時間がかかりますが、縦から上手く攻略すれば一気に寄せまで持って行く事が可能です。
で、今回の対局はまさに縦ラインからの突破となります。羽生先生が積極的に仕掛けて行き、佐藤先生の攻撃を交わしつつ陣地に切り込んで行きます。
佐藤先生の受けもかなり堅いので、中々突破は難しいんじゃないかと思っていましたが、下記局面で羽生先生がばさっと角を切って相手陣地の金を剥がします。
さらに香先の歩を伸ばし、手駒の金も使って佐藤先生の穴熊を崩しにかかります。
9筋を清算する形になり佐藤先生の玉が上に上がってきます。
が、ここで佐藤先生も反撃に転じます。▲7五歩打とされた局面で△7六歩打と打ち返します。
そしてこの後お互い一歩も引かず、打った歩でそれぞれの守りである金と銀を剥がしにかかりました。
お互いの穴熊が崩れ...一気に終盤突入か?
お互いの穴熊が崩れましたが、佐藤先生側の陣地がかなり崩壊気味...
さらに羽生先生は▲8五桂と打って玉金両取り&寄せにもっていこうとします。
この後、△9二玉、▲9三銀打、△8一玉、▲8二銀打、△7二玉、▲7三桂成、△6一玉と進みます。
いかにも詰みそうな感じなのですが、寄せ途中で金が手駒にないのでギリギリ詰まない状態。
羽生先生も桂馬で金を取って詰ましに行きますが、佐藤先生は右側へ玉を早逃げし何とか詰みを逃れようとする場面。
この局面で加藤一二三先生が解説。この局面になると佐藤先生の玉は詰まないが、羽生先生側は9七香と打たれれば詰みなので、▲9八玉と上がるしか無いと解説。
ちなみに同金なら△9七龍、▲同銀、△7七角成、▲8八香(金でも同様)、△8九金、▲9八玉、△8八金以下詰み、同銀は△9七龍で詰みとなります。以下参考図。
という事で、玉を▲9八の地点に上がるのですが、佐藤先生側も角がいなくなれば即詰みの状態なので、解説では佐藤先生は必至をかけるしか勝ちがないという説明が...
羽生マジック炸裂「9六金」、解説者が手筋に気付かず驚愕・絶叫
ここで再度加藤一二三先生こと「ひふみん」が解説を続けます。
佐藤先生が羽生先生の玉を詰ましにかかり、△9四香打と指しました。
- ひふみん:さて、この受け方ですが、歩が沢山あるので 9五歩、9六歩、9七歩で7九龍、佐藤九段の勝ちですね
と...何とまだ対局が終わっていないのに「佐藤先生の勝ち」と解説で言い切ってしまいます(苦笑)。
以下参考図なのですが、
▲9五歩打、△同香、▲9六歩打、△同香、△9七歩打、▲7九龍で確かに必至です。が、この発言をした後少し時間を置いて、
- ひふみん:断言するのは難しい所、4四角が抜かれてしまうと詰みませんね
と...「どっちだよ!?」と視聴者側からは言いたくなります(苦笑)。
他記事でも紹介しているのですが、恐らく羽生vs中川戦(こちらもNHK杯)を思い出したんじゃないでしょうかね...
この時もひふみんの解説で中川先生の勝ちを宣言して、最終版羽生マジックで華麗に中川玉を詰ます(頓死)といった対局があったので...
少し話がそれましたが、さて、実際本局はどうなるんでしょうか。△9四香打に▲9五歩打、△同香車までは解説通り...
がしかし、この後羽生先生が指した手は「▲9六歩打」ではなく何と「▲9六金」!
- ひふみん:あーっ、おわぁーっと驚きました、いやー、ひゃー、大変な驚きの一着で。さて驚きの一着が出まして、9六金、いやーこれは...わぁーにわかに、うわーってうなりましたよね。
まさに意味不明...(苦笑)
まぁ加藤先生(ひふみん)の頭の中にはこの手筋は一切思い浮かんでいなかったんでしょう。その現れが上記解説?内容になっているのかと。
▲9六金と指す事で、8七の地点のスペースをあけつつ香車を引き上げるという妙手、タダで金を渡してでも上部に玉を脱出しようという手になります。
がしかし、これが本当に良い手で...ここで佐藤先生は△5二玉と攻撃をやめて玉の早逃げ。加藤先生も「これは仕方が無い」と解説していました。
そしてこの後▲7八銀と佐藤先生の金を取って羽生先生側の陣地がかなり安全になりました。▲9六金の一手でここまで状況が変わるとは...
- ひふみん:どうやら、この7八銀の一着、流石にどうも羽生NHK杯の勝ちって感じですね、
- 矢内先生:あ、そう、ふふふ...
出た...なんとなんと、先ほど佐藤先生の勝ちを宣言していたひふみん、まさに手のひら返しで今度は羽生先生の勝ちを宣言。
隣にいた矢内女流四段は「ふふふ」と我慢出来ず微笑んでしまっていますし(苦笑)
終盤入玉模様になるが、佐藤玉を捉え羽生先生勝利
さて、加藤先生の羽生先生勝ち宣言が出たのでこのまま終局するのか...と思いきや、なんとなんと佐藤先生も脅威の粘りを見せ、気が付けばお互い入玉模様に...
加藤先生は既に解説で「羽生先生側の玉、これはもう掴まりませんよ」と入玉成功を宣言、佐藤先生側も上手く入玉するように見えたのですが...
下記▲3四飛打がまた良い手でしたね。
同玉なら▲2五金打で再度佐藤玉を下段に落とす事が出来るので△4六玉と上がるしかないのですが、丁度7六の角が自陣にも効いているので▲5八金と打って入玉を阻止しようとします。
佐藤先生もこの金を剥がそうと△5七歩と打ちますが...
▲4七歩打とされ、同桂成だと▲3六金からの詰み、玉が何処に逃げても手駒に金が2枚あるので詰みとなり佐藤先生の投了となりました。
対局終了後、
- ひふみん:本局は羽生NHK杯が終盤絶妙な戦い方
とのコメントがあり、途中「羽生さんの戦い方上手いですよね、9六金という離れ業がありましたね。」と解説もしていました。
ということで、今回は羽生マジックが炸裂した内の一つ、NHK杯での羽生vs佐藤戦をご紹介しました。
羽生マジックはNHK杯で多く生まれていて、本ブログにも多々ご紹介しているので良ければ見てみて下さいね。