光速の寄せ「7七桂打」。「谷川」対「羽生」第9期竜王戦七番勝負第2局を解説

2017年10月25日

【 本記事のターゲット 】

  1. 谷川浩司 vs 羽生善治の対局内容を知りたい
  2. 光速の寄せ7七桂打が生まれた対局・内容を知りたい

今回ご紹介するのは、1996年の竜王戦第2局「谷川vs羽生戦」のご紹介です。

  • 「光速の寄せ」

将棋ファンであれば、この言葉を聞いた瞬簡に=谷川先生というイメージを持っているかと。

光速の寄せと呼ばれる棋譜はいくつかあるのですが、その中でも7七桂打という手が生まれた羽生先生との竜王戦が一番皆さんの印象に残っているのでは?

という事で、mogレベル(二段)で少々解説に間違いがあるかもしれませんが、実際に光速の寄せと呼ばれた第9期竜王戦第2局を棋譜付きで解説します。

光速の寄せ「7七桂打」が指された対局の詳細をご紹介

対局名

第9期竜王戦七番勝負第2局

対局者(段位は当時のもの)

先手:羽生善治竜王

後手:谷川浩司九段

1995年度に羽生さんが史上初めての七冠制覇を成し遂げた後の翌年1996年での竜王戦となります。

リベンジの位置付けとなった第9期竜王戦七番勝負、結果は谷川先生の4勝1敗で羽生先生から竜王位を奪取します。

その時の第2局に谷川先生が指した△7七桂がまさに「光速の寄せ」の復活と言われた一手。

ただで取られるだけのところに桂馬を放り込んだこの手を境に、羽生先生の玉はたちどころに寄り形となり、谷川先生が勝利しました。

光速の寄せ「7七桂打!」第9期竜王戦七番勝負第2局を棋譜付きで解説

という事で、実際に第9期竜王戦七番勝負第2局を解説してみたいと思います。

戦型は角交換居飛車

序盤角交換&後手の谷川先生の棒銀模様で局面は進むかのように思われました。

がしかし、その後羽生先生が四間飛車へ、谷川先生が中飛車へと戦いの場が中央で繰り広げられる形となりました。

そこで一瞬の隙を狙って羽生先生が▲6一角打と打った局面が下記。

しかしこれには一旦飛車を△6二飛としておいて、▲8三角成、△9二角打と馬を角で相殺します。

互いに互角の勝負

その後後手の谷川先生の陣形が少々崩れたのをきっかけに先手の羽生が攻めを継続させます。

下記局面にさしかかり、中央が突破出来そうな状態まで持って行きますが、逆に2五の桂馬を狙われている状況なので、まだどちらが優勢というのは難しい所でもあります。

その後も羽生先生が攻め続けます。

谷川先生の桂馬を剥がし、▲5四角打として玉を睨みつつ8一の桂馬を狙っている状況です。

羽生先生がかなり攻めているように見えるのですが...

ここで注目なのが谷川先生の玉周り、金銀三枚で囲われているので、玉周りだけみると谷川先生の方がよさそうなんですよね。

光速の寄せ「7七桂打」が炸裂!

その後谷川先生が△7五歩打と銀のアタマに歩をたたきます。

これ同銀だと△7六桂打と王手飛車がかかってしまうので取れない歩なんですよね。なのでここは羽生先生銀をそのまま放置して▲8一角成と進めます。

そのままだと飛車がただで取られてしまうのて、△6二飛車と銀に紐付けしつつ飛車交換を狙う作戦に。

そこで羽生先生は▲6三馬と飛車のアタマに馬を引き、それをみた谷川先生は△5九角打と飛車に当てつつ将来的に7七の地点に焦点を当てて攻める形になりました。

飛車を横に逃げると6三の馬がタダで取られてしまうので、縦に逃げて角に当てる形で▲6九飛と指します。

ここで後手の谷川先生の持ち駒が桂馬と歩しかなく、後手の攻めにて良い手順はなかなか発見できず、谷川先生側がちょっと厳しいんじゃないか...という声が出始めていたのですが...

ここで谷川先生の指した手がまさに光速の寄せ「7七桂打!」

ん?なんだこの桂馬は...タダじゃんと殆どの方が思うかと思います。

が、この桂馬よくよく考えるととても恐ろしい手筋なんですよね。

棋界の太陽と呼ばれた中原先生も「今回の竜王戦は面白くなりましたね。7七桂という手が出ました。」といったコメントを残したくらいの手なんです。

参考手順1 :同桂の場合はどうなる?

ではこの光速の寄せ7七桂打の後の手順を見て行きたいと思います。

飛車に当たっているので普通は▲同桂だと思います。しかし同桂の場合ですが、△7六歩とそのまま歩を進めるのが良い手筋になります。

銀を取った後、相手の桂馬に歩があたりますので攻めが早くなります。

同桂ではなく同金の場合も歩が金に当たってしまうので指せないですよね。

同桂の場合ですが、この後の手順が少々ややこしいのでちょっといろいろ分けてみて検討してみます。

参考手順1から▲6二馬と進んだ場合

仮にそのまま▲6二馬と飛車をとってしまうとどうなるか?という所を見て行きます。

まずは王手をかけれるので△7七歩成と進めますよね。▲同金となり、一旦馬を取る為に△6二銀と取ります。

角がタダで取れるので▲5九飛車と進めますが、ここで△6八角とか△6八銀打とすれば飛車金両取りになりますね。

飛車が縦に(5八に)行けば7九角打などが厳しいでしょうか。う〜ん、これならまだ頑張れるような気がしますが...

mogには見えていない手があるのでしょうか。飛車が横に逃げた場合は...すみません、分かりません(汗)

後から気づいたので画像ではご紹介出来ないのですが、△7七歩成と進めた時に、▲同金、△6八銀打が良いかもしれませんね。

放っておくと△7七銀成が痛打になりますし、同飛車なら△同角成が痛打。しかし▲5九飛車と角をとった場合は一旦△6二銀として、結果的に上記棋譜の通り△6八銀による飛車金両取りが残っているので同じ形になりますね。

では少し戻って▲6二馬と進んだ局面で、△同銀、△同飛成の場合はどうなるか、その場合は△7七歩、▲同金、△7九銀打、▲7八玉、△8九角打と進みます。

角か銀を取れば△7七角成で詰み筋に、逃げても同様に△7七角成で厳しい状態ですね。

 実戦は▲5九飛と進むが...

先ほど説明した通り、桂馬はタダなんですが、取ると手数が早くなってしまう&寄せ形に入ってしまいそうです。

なので羽生先生は桂馬を取らずに▲5九飛と指して角を取りました。

その後谷川先生が△6三飛車と馬を取り、▲5四角と飛車と銀の地点を守る手を羽生先生が放ちますが、この後の谷川先生が放った△6八角打も素晴らしい手♪

▲同金は△同飛成で王手飛車なので取れないですよね。

かまわず▲5三角成としても、△5九角成として、7六の銀が歩で当たっているので同銀などと取ってしまうと△8九桂成、▲同玉、△6九飛打で王手馬が炸裂し後手優勢となります。

なので▲5三角成とは指さず、羽生先生は▲5八飛と指しますが...△8九桂成、▲同玉、△7六歩、▲6八飛車、△6八飛成、▲同金と下記局面まで進みます。

何とか攻めをさばいたように見えますが...7六の歩が効いていますね。

光速の寄せ加速!あっという間に寄せに...

という事で、谷川先生は7六歩を拠点にして△7七銀打と詰めろをかけます。

羽生先生▲6三飛打と銀取りと6八の拠点を守る手を指しますが、かまわず△8八飛車打と谷川先生猛攻をかけます。

▲7九玉の一手ですが、△6八飛成、▲同飛成、△同銀、▲同玉と進み、△3八飛打と谷川先生が指します。

ここでもやはり7六の歩が効いています...合間をしても△7七金打が厳しすぎる...

という事でそのまま▲6八玉と早逃げをしようとしますが...△7七金打、▲7六玉、△6八飛成、▲7五玉、△6三桂打...

玉の逃げ場がないので同角しかないのですが、△6三龍と引いて先手受け無し状態(合間をしても△8四角打で詰み)となり、あっという間に羽生先生投了となりました。

一見まだ寄せに入るまで手数がかかると思われた局面ですが、△7七桂打から一気に寄せ筋にもっていった流れはまさに「光速の寄せ」と呼ぶにふさわしいですよね。

最後に

最近将棋界では藤井聡太プロを初め若手棋士が飛躍し、タイトル戦などでも登場&タイトルを奪取し出しています。

もちろん最近の対局も面白いのですが、昔の対局も歴史を感じる部分もありますし、良い手・名局が多い気がします。

現代将棋だけでなく、是非過去の名局も一度振り返ってみては如何でしょうか。