【 本記事のターゲット 】
- 将棋プロ棋士公式戦での時間切れはあるのか?
- 当時の対局内容を知りたい
今回ご紹介するのは、将棋プロ棋士公式戦での時間切れで勝敗が決した対局のご紹介です。
mog自身、今まで時間切れで勝負が決する場面はこの対局くらいしか思いつきません。
実際には詰んでいる局面での時間切れなのですが、通常は指し続けるか投了する形になるのですが...
本局は直前に詰み筋を発見してしまい、次の手が指せなくなってしまって時間切れ...という形になります。
実際対局内容も素晴らしいので、棋譜付きで状況&mog目線で解説します。
目次
時間切れが発生した将棋プロ公式戦の詳細
対局名
第46回(1997年)NHK杯テレビ将棋トーナメント 3回戦 第7局
対局者(段位は当時のもの)
先手:小林健二八段
後手:屋敷伸之七段
解説者(段位は当時のもの)
井上慶太八段、山田久美女流
将棋プロ公式戦時間切れが発生した対局内容を棋譜付きで解説
戦型は三間飛車 vs 居飛車
先手が小林健二八段、後手が屋敷伸之七段になります。
先手小林さんの三間飛車で始まり、上記図からいきなり角交換&筋違い各打ちにて屋敷さんが馬を作る展開へと進んで行きます。
序盤から結構激しい将棋となり、進行具合が早いように見受けられました。
小林八段優勢のまま進んで行くが...
しばらくして屋敷さんの馬が交換となって相殺し、小林さんがどんどんせめて行く場面になって行きます。
今△4五銀と桂馬を取った場面になります。コマの損得だけ考えれば後手番が優位という形になっていますが...
どうなんでしょうか。mogには先手の方が形がかなり言いように見えます。
王手飛車が発生、見た目は先手有利に見えるが...
▲4三桂成、△同玉、▲4四銀打と下記図まで進行します。
もちろん△同玉としたら▲3五角打の王手飛車が狙いの筋になっています。
しかし取らずに逃げた場合は▲4三金打などが厳しく、上に逃げても▲3五金から銀を抜かれてしまう形になってしまいます。
なので△同玉、▲3五角打、△4三玉、▲6二角成と進んで行きます。
この場面だけみると、圧倒的に先手結有利、優勢に見えます。次の▲4三金打や▲6三飛車打がかなり厳しい...
先手玉は左右にバランス良く金銀が配置され、隙がないように見えます...
が、ここからの後手の指し筋が素晴らしかったですね。その結果、先手の時間切れ負けという形になってしまいます...
脅威の6六桂打、一気に形勢が分からなくなる
この状況で屋敷先生が放った次の手はなんと△6六桂打!
桂馬のタダ捨てになります。
一見意味がわからないこの6六桂打ですが、歩で取った後空いたスペースの筋に角を打ち込むというのが狙いになっています。
ちなみに取らずに玉が寄ると△7六桂打などが厳しい...
玉が下がっても△3八銀打で龍の筋に玉がいる事でかなり危険な状態に追い込まれます...
なので本局も▲同歩と進んだのですが、先ほど記載しました通り、狙いの角打ち△8五角打と手順が進んでいきました。
ここで手駒を見ると飛車・金・桂馬・歩しかありません。
歩は打てないので仮に桂馬などで合間をしても△5五桂打と角筋から攻めを繋げられていてかなり危険な状況になります。
実際にこのあとどうなるのでしょうか...
一気に寄せに。詰み筋が見えたらしく、そのまま時間切れ負けに...
角と桂馬で先手玉がかなり詰め寄られてしまっている局面...
数手前まで安全だと思われていた先手側が6六桂打から一気に寄せにもっていかれそうな形になっています。
本局では▲7六歩打と「大駒は近づけて受ける」という形に進んでいきます。
これ、実際に△同角と取った場合、▲6七金打と相手角に金を当てた状態で受ける事ができるので、△5五桂と打たれても金で角を取ってしまうという事が可能になります。
なので、屋敷さん側は同角と歩を取らずに、先に▲5五桂打と打ち込んでいきます。
王手がかかっていない状況なので、後手玉に▲3五桂打から王手をかけていきます。
△3四玉、▲4四飛打、△2五玉、▲4五飛と進み、一旦王手から遠ざかります。
そこで後手の一手が△7六角!
ここで小林先生の手が完全にストップ...
もし▲6八玉と寄れば△6七桂成、▲7九玉、△7八香打....
▲同金、△同桂成、▲同玉、△6七金打、▲6九玉、△6八銀打までの詰み...
もし角を打たれた場面で玉が▲5九玉と下がっても△3九龍と龍を切った後、▲同銀、△4九金打から先ほどと同じ手順になりますので詰みになります。
秒読みの5,6,7,8,9.....10の後、「ブーっ」って大きな音が会場に流れ、小林先生無念の時間切れ負けとなってしまいました
恐らくNHK杯初となる時間切れ負けとなりました。
後日NHKハプニング集のインタビューにて小林先生のコメントが放送されており、
「秒読みで着手をしようとした時に自玉に詰みがある筋が一瞬見え、受けなければ行けないと思って頭が真っ白になった瞬間に時間切れになってしまった」
との事でした。
ただでさえ時間が短いNHK杯戦、それも秒読みの中で自玉に詰みが見えたら考える時間もない&指し手が見つからなかった状況で発生したNHK杯戦での唯一の時間切れ負け。
しかしこの時間切れのブザーですが毎回準備はされているらしく、リハーサルでもブザーが鳴るテストは行われている姿がこの前テレビで放送されていました。
なので今後あるかどうか分かりませんが、同様に時間切れとなった際はブザーが鳴り響く形になるかと...
ということで、今回は将棋プロ公式戦での時間切れに関してご紹介しました。
プロ公式戦でも様々なハプニングというのは当然発生します。別記事でプロ公式戦での反則負けの記事も書きましたが、プロでも人間、やはりアマチュアや素人と同様にいろんな事が発生するということですね。