【 本記事のターゲット 】
- ニュースにもなっている将棋ソフト不正利用に関する一連の事件内容を知りたい
- 事の発端やこれまでの経緯などをまとめて知りたい
以前ニュースになっていた将棋ソフト不正利用の事件...一般の方はいまいちピンと来てないかと思います。
そこで、そもそもこの事件の発端となった経緯〜調査含め、わかり易くまとめて説明してみます。
これを読めばなぜこのような事件が起こったのか一通り理解できるはず...
ちなみに個人的な見解は後ほど記載させて頂きますが、実際にプロ棋士が不正ソフトを利用したとかは考えていません。考えたくもありません...
ただ実際にコンピュータ将棋(人工知能・AI)はものすごい進歩しているのは間違いなので、その部分に関しても触れていきたいと思います。
将棋とコンピューター。人工知能・AIの進化&背景を解説
昔の将棋ゲーム(スーパーファミコン時代、1990年代)
mog自身が小学生の頃でしょうか、高学年になった当たりからスーパーファミコンでいくつか将棋ソフトが発売されてきました。
ちなみにmogがもっていたゲームソフトは「将棋 風林火山」。遊びで将棋をするようになった頃、親が本とこのゲームソフトを買ってくれました。
ちなみに当時の定価で8,800円、めちゃくちゃ高価です(苦笑)。当時のスーパーファミコンのカセットの値段って大体これくらいか、高い物は10,000円超えてましたね...汗
コンピューター対戦も出来たのですが...残念ながらmogの小学生の実力でも余裕で勝てるくらい...めちゃくちゃ弱かったです。
なのでメインでやってたのはいくつか入っていた「詰め将棋」や最善手を100点満点で採点してくれる「次の一手」などをやっていました。次の一手は今考えると以外と良かったのかも...
PlayStation 2のゲームソフト「東大将棋」でアマ5段レベル、2000年代
時は流れ...大学に入る前に購入したPS2、当時は黒いボディーに一目惚れ...RPGなど色々ソフトは購入しましたが、ここで衝撃を受ける事になります。
当時購入した「PS2 東大将棋」、買うときに裏面に確かアマ5段〜6段レベルと記載が...
いやさすがにそれは無いでしょうと、所詮コンピューター、楽勝で勝てるかなと思いきやまさかの完敗...もう一度やっても完敗...
良い勝負すらさせてもらえず...既に15年以上前にはmogはコンピュータには勝てなくなっていました...泣
人工知能AIの躍進は凄まじい...将棋アマレベルではコンピューターに勝てない
そこまで有名では無かったのですが、実は1990年から世界コンピュータ将棋選手権というのが毎年開催されていました。
2010年頃になると既にアマレベルでは敵無しの強さを誇るコンピューター、いやこれは人工知能ですね。
既に人間が思い付かない手なども指してくるようになります。
そしてついに...
ついに実現したプロ棋士 vs コンピュータ・AI、結果AIの勝利
2012年ついにプロ棋士との対戦が開催されました。
米長邦雄永世棋聖 vs ボンクラーズ(2011年世界コンピュータ将棋選手権優勝)
結果は...ボンクラーズの圧勝!初めて公の場でコンピュータがプロ(引退棋士)に勝った瞬間でした。
そしてここからプロ棋士 vs コンピュータの長い戦いが始まります。
電王戦にて現役プロ騎士 vs AI・コンピューターの対戦が繰り広げられる
プロとコンピュータ、いったいどっちが強いのか?将棋ファンの中でもかなり関心が高くなってきました。
そこでドワンゴ主催の元、正式にプロ棋士とコンピュータの対戦の場を設ける事になり「電王戦」が開催される事に。第一回は米長先生との対決だったので、2013年の第2回からは下記の通り。※段位は当時のもの
第2回電王戦(2013年)
プロ棋士 | 勝敗 | コンピュータ | |
第1局 | 阿部光瑠 四段 | ○ | 習甦 |
第2局 | 佐藤慎一 四段 | ● | ponanza |
第3局 | 船江恒平 五段 | ● | ツツカナ |
第4局 | 塚田泰明 九段 | △ | Puella α |
第5局 | 三浦弘行 八段 | ● | GPS将棋 |
第3回電王戦(2014年)
プロ棋士 | 勝敗 | コンピュータ | |
第1局 | 菅井竜也 五段 | ● | 習甦 |
第2局 | 佐藤紳哉 六段 | ● | やねうら王 |
第3局 | 豊島将之 七段 | ○ | YSS |
第4局 | 森下卓 九段 | ● | ツツカナ |
第5局 | 屋敷伸之 九段 | ● | ponanza |
第4回電王戦(2015年)
プロ棋士 | 勝敗 | コンピュータ | |
第1局 | 斎藤慎太郎 五段 | ○ | Apery |
第2局 | 永瀬拓矢 六段 | ○ | Selene |
第3局 | 稲葉陽 七段 | ● | やねうら王 |
第4局 | 村山慈明 七段 | ● | ponanza |
第5局 | 阿久津主税 八段 | ○ | AWAKE |
ポイントだけ説明すると、2013年の電王戦では第4局の塚田九段の持将棋で引き分けとなった対局、終始コンピュータに圧倒されながらも何とか入玉で引き分けに。
インタビューで少し涙ぐんでいる姿を見て心を打たれた方も多いのでは。
2015年の電王戦、こちら勝敗だけみればプロ棋士が勝ったように見えるかもですが...プロ棋士側は事前に対戦するコンピュータと同じソフトで事前練習が出来るという得点付き。
そして印象的だっったのが第5局。阿久津先生の対局だったのですが、まさかの以下図でコンピュータ側が投了。
下が先手の阿久津先生、上が後手のコンピュータ AWAKEです。今▲1六香と逃げた所で投了となります。
実はこの後、△1九角成、▲3八玉とより、後手はその後なんでもいいので下記図面は適当に指しているのですが、▲5八金、▲4八金直、▲1七桂、▲6九飛とする事で後手の角がほぼタダで取れてしまうハメ手(バグ)があったのです。
下記参考図。
ここまで事前に研究して対策をとらないと、プロ棋士でもコンピュータ将棋に勝てなくなってしまった。
はっきりいって既に人間を超えた知能をAI・コンピュータは持ってしまったのです。
その後「第1期電王戦」「第2期電王戦」という形で日本将棋連盟側で「叡王戦」が新設され、優勝者は叡王の称号と将棋電王トーナメント優勝ソフト「ponanza」が対戦する対局となります。
第1期電王戦(2016年)はNHK杯でも優勝経験のある山崎隆之八段との対戦だったのですが、結果はponanzaの2連勝、そして第2期電王戦(2017年)は佐藤天彦名人というタイトルホルダーとの対戦となります。
しかし、結果は惨敗。当時の佐藤名人ですら、AIに負けてしまうという結果に...。
プロ棋士でもコンピューターに勝つ事が難しいと証明された対局となりました。良ければ下記別記事もあわせて見てみて下さい。
AIが進化した中で事件発生、三浦九段の将棋ソフト不正利用疑惑
先ほど電王戦の事を記載しましたが、それほどコンピュータ・AIは強くなり、mog自身は人間レベルはとうに超えてしまっていると考えています。
iPad(iPhone)のアプリ「将棋ウォーズ」でも期神というアイテムが利用でき、コンピュータが代わりに数手指してくれるというものですが...ものの数秒しか考えていないのに指し手が凄すぎて...
使う側 or 使われる側としても見てて唖然するほどです...
このようにスマートフォンでも将棋ソフトでコンピュータの力を使って、プロでも見つけれない次の一手(最善手)を見つける事が可能な時代になってしまいました...
三浦九段不正疑惑の事の発端を解説
2016年のプロ公式戦にて、三浦九段の対局中における離席数の多さが不自然に思った棋士が数名いたようです。離席中にスマートフォンを使って次の一手を調べているんじゃないかと...
ただ三浦九段の2016年度勝敗数を見ていると、22戦10勝12敗と特別に勝率が高いわけではないんですよね...
疑われる事に至った行為(離席数)が良くなかったのかなと。ただプロの対局・順位戦などでも持ち時間6時間あるので、ずっとその場にいるのも厳しいかと...
そのような疑いをかけられている状態で、三浦九段は将棋界最高峰の竜王戦の挑戦者決定戦まで進みます。
2016年9月8日、挑戦者決定戦で丸山九段と対戦した三浦九段は2勝1敗で渡辺竜王への竜王戦挑戦者に決定します。
しかし2016年10月3日、A級順位戦で渡辺竜王と三浦九段が対戦します。竜王戦が10月15日からだったので、前哨戦のような感じです。
そこで事件は一気に大きくなります。mog自身も順位戦の棋譜を見てみたのですが...確かに三浦九段の実力で上手くさしたといえばそうなのですが...渡辺竜王もかなり複雑な心境だったのではないでしょうか。
少しだけ棋譜を紹介してみたいと思います。
将棋ソフト利用疑惑の元となった局面を解説
先手が三浦九段(画面下)、後手が渡辺竜王(画面上)となります。今三浦九段が4五桂と跳ねた所です。序盤でいきなり桂馬を跳ねることはあまり無いのですが...思い切った戦略に出た形です。
この後、△2二銀、▲2四歩、△同歩、▲同飛車、△4三歩、▲7一角打、△7二飛、▲5三桂不成と進んでいきます。
この▲5三桂不成などは中々させる手ではないかなと。
その後△5一玉と寄りますが、▲6一桂成、△同玉、▲4四角成と桂馬を捨ててまで馬を作りにいったという中々発想しづらい指し手だとは思います。
その後局面は進み...
今▲7二飛成に合わせて渡辺さんが△6二飛打とした所です。ここでも上手い手筋として、△8一角打、飛車に紐を付けるだけでなく、その先の5四金も睨んでいます。
この状態では龍を取るしか無く...5四の金を少しでも自陣へと△5三金と指しますが...
▲6二飛打と3二の金と6一飛成の両方の厳しい攻めとなり...△5二銀と合わせましたが...
▲6一馬、△同銀、▲3二飛成まで進んだ所で渡辺竜王投了となりました。
渡辺さんも色々悩んだのではないでしょうか...他プロ棋士の疑いの意見、竜王戦まであと数日...このような疑いを持った状態で七番勝負を指すのは本望ではないかと...
そこで渡辺さんは他棋士との意見交換や当時谷川会長や常務会などに意見・対応を求めました。
週刊文春への取材にも応じ、疑惑についての意見を述べました。具体的には三浦九段の指し手が将棋ソフトと一致する率が高いのではないかなど...
そして記事が掲載されるという情報を日本将棋連盟が把握し、将棋界最高峰の棋戦である竜王戦を目前にして、連盟としてどう対応すればいいかを迫られる場面になってしまいました。
将棋ソフト利用疑惑における将棋連盟の対応、三浦九段出場停止処分
時間がない中、将棋連盟が下した決断は...竜王戦が始まる3日前の10月12日になります。
三浦九段を12月31日までの年内出場停止という処分を発表。しかし...こちらの処分、確たる証拠があれば話は別なのですが...証拠が無い中の処分、当然最高峰の戦いである竜王戦も出られず、挑戦者決定戦で戦った丸山九段が出場する事に...
私自身が思うに、竜王戦をとりあえず延期+スマホなどの持ち込みは禁止にして、もう少し冷静な対応+調査をしていれば良かったんじゃないかなと...
当然対局地の予約や関係者スケジュールなど諸々あるとは思いますが、判断を急がず特例でもう少し何とかなったんではと...
結局三浦九段は竜王戦はもちろん、他棋戦の予選や名人戦の順位戦など、全ての公式戦に出場出来なくなりました。
この問題はニュースでも大きく取り扱われ、いろんな棋士の方々にも様々なコメントが。
羽生さんにもこの問題は飛び火しており、週刊文春などでは羽生さんが「限りなく黒に近い灰色だと思う」とメールした事を取り上げられてしまっています。
後に、Twitterにて羽生さん本人から「灰色に近いと発言をしたのは事実」ですが、「疑わしきは罰せずが大原則と思っていますので誤解無きようにお願いを致します」と声明を出すまでに至りました...
そう、将棋界全体を揺るがす自体に発展してしまったんです。
将棋連盟調査の結果、証拠なし。谷川将棋連盟会長が辞意
そして事態はそれだけでは終わりません...結局証拠が無い中事が進んでしまった三浦九段の処分。日本将棋連盟は第三者調査委員会を設置し、出場停止処分の妥当性やスマホの分析+対局中の行動などを総合的に調査する事となりました。
調査の結果、不正行為の証拠なし
そして2016年12月26日、第三者調査委員会からの発表があり、「三浦九段において電子機器を使用した形跡はなく、またソフトとの一致率は根拠となり得ず、不正行為に及んでいた証拠はない」という発表がされたのです...
これを受け、直に谷川浩司連盟会長は27日謝罪会見を行うに至りました...
またきっかけとなったと言われている渡辺竜王も謝罪のコメントを発表しています。
竜王戦に関しては結果渡辺さんが丸山さんに対して4勝3敗と防衛に成功したのですが、その就位式で「メディアの取材に応じたことで三浦九段、読売新聞社様、将棋ファンの皆様方にご迷惑をおかけしました。申し訳なく思います」と謝罪するという事態となりました。
三浦九段への処置、降級なし&来期A級
出場停止中の棋戦は全て不戦敗となってしまった三浦九段、A級順位戦でもB級1組に降格となる成績になってしまったのですが、今回の騒動の救済措置として、今期終了時にはB級1組に降級せず、次期(第76期)はA級として在籍出来る事が正式に認められています。
ただ竜王位の挑戦権などの救済措置は現在まで行われていない状態です...
将棋連盟の責任、会長&専務&常務が解任するまでに発展
ここまで話が大きくなってしまったので、将棋連盟側の責任問題が問われました。特に将棋連盟会長の谷川先生に関しては、度々記者会見を行い、様々な意見が世の中飛び交ってかなりのご苦労をされたかと...
そして2017年1月18日、日本将棋連盟の谷川浩司会長が正式に辞意を表明しました。理由として「対応が後手に回ったこと」と「心身ともに不調」との事。
対応が後手というのは、証拠がない状態で処分を下し、調査が後回しになってしまい三浦九段はじめ様々な方に迷惑をかけたという意味合いだと思われます。
もう一つの理由ですが、これは記者会見を見た人であればもう問い詰めないで欲しいという思の方が大きいかと...辞任会見時はかなりやせ細っているように見えました...
会長の辞任だけではこの事件は終わりませんでした。
2017年1月19日に島朗常務理事が辞任、2017年2月27日に日本将棋連盟の臨時総会が開催、5人の専務・常務理事の解任動議について審議した結果、5人のうち3人(青野照市専務理事、中川大輔常務理事、片上大輔常務理事)の解任が決定されました。
現在新会長として就任したばかりの佐藤康光九段ですが、記者からどう思うか質問を受けた所、「申し訳ないが正直わからないというところ」と述べるなど、今までに無い異常事態になっています。
ということで、今回は将棋プロ棋士でのAI不正疑惑をご紹介しました。
将棋ソフト、人工知能AIがもたらしたプロをも凌ぐ知識・技量、そしてプロの棋戦までにも影響が出てしまうほどここ数年でものすごい進歩を成し遂げました。
将棋だけでなく、囲碁の世界でもGoogleがテストで公開したAIのアルファ碁(AlphaGo)も囲碁のプロ棋士に4勝1敗と勝ち越すなど、まだまだ進歩を遂げています。
まずは将棋界が以前の状態(クリーンな状態)になるように願っています。
そしてこの人工知能・AIがどこまで私たちの生活に入ってくるか、もしかしたら今後数十年の間に世の中が劇的に変わってくるかもしれませんね。