妙手5七銀!「中原誠」対「米長邦雄」第37期名人戦第4局を記譜付きで解説

2018年1月28日

【 本記事のターゲット 】

  1. 中原誠が指した絶妙手「5七銀」の対局内容・棋譜を知りたい
  2. 前後の流れ、その後どうなったか解説含めて内容を見てみたい

こんにちは、将棋TIPSです。今回ご紹介するのは、1979年の名人戦第3局「中原vs米長戦」のご紹介です。

「永久に残る妙手」、こう呼ばれるのは下記3つと言われています。

  • 中原 vs 米長 名人戦の「5七銀」
  • 升田 vs 大山 名人戦の「3五銀」
  • 羽生 vs 加藤一二三 NHK杯戦の「5二銀打」

これらの手は素人がパッと見ただけだとさっぱり分からないのですが、思惑を読み解いて行くと何とも恐ろしい手なんですよね...

NHK杯戦の羽生さんが放った5二銀などは解説者でもしばらく分からなかった&理解出来なかったくらいなので...(米長先生は一瞬で分かった&大声をあげた事で有名)

下記に別記事にて升田先生の3五銀と羽生先生の5二銀打も紹介しているので、良ければ見てみて下さい。

という事で、今回は中原先生が名人戦で指した伝説の妙手「5七銀」が生まれた対局内容を棋譜付きで詳しくご紹介します。

mog目線(アマ二段レベル)なので、多少解説内容等が間違っていてもご容赦下さい。

将棋5七銀が発生した対局名・対局者をご紹介

対局名

1979年4月26日 第37期名人戦第4局

対局者(段位・タイトルは当時のもの)

先手:中原誠名人

後手:米長邦雄八段

出典:日本将棋連盟

1979年春、現在から約40年前に行われた第37期名人戦になります。

この時代の名人戦ですが、何と中原先生が6連覇中となっており、それに対して米長先生が挑戦権を得て対局したという形になっています。

この名人戦七番勝負は米長先生の2連勝でスタートし、中原先生に対して「名人危うし」の声も出ていたみたいなのですが...

その次の対局は中原先生が勝ち、そして第4局で飛び出したのが絶妙手「5七銀」になります。

では実際に名人戦第4局の内容を解説していきたいと思います。

絶妙手「5七銀」!第37期名人戦第4局対局内容を棋譜付きで解説

序盤は矢倉模様のしっかりとした展開に

先手が画面下の中原先生、後手が画面上の米長先生になります。

序盤は互いにしっかり玉の周りを固めるように相矢倉模様の戦型となっています。

しかし、「自然流」とも呼ばれていた中原先生の指し方が、徐々に相手側にプレッシャーをかける形で矢倉が尖っていっています。

▲3七桂馬や▲6六銀など普通であれば中々指せない手ですよね。

mogだと桂馬より先に銀を上がって、銀が桂先に出てから桂馬を跳ねますけど、いきなり桂馬を跳ねてしまうと、角が出られた時&銀の紐が無くなった時にちょっと怖い形になるので..

いきなり中盤〜終盤へ突入、角交換から激しい戦いに

しばらくゆっくり進むのかな...と思っていたのですが、中盤以降いきなり戦いが激しくなります。

お互い角を出てにらみ合っている状態...

この後角交換となり、米長先生が中原先生の陣地△3八角打と馬を作りに行きます。

これは飛車を逃げる他ないので、▲5九飛車と回りますが、△2七角成、▲5四銀、△5八歩打、▲同飛、△3六馬と進みます。

馬が飛車&銀に当たっている状況なので、ここだけ見ると中原先生側が劣勢なんじゃないか...と思うような局面。

これはもう逃げる訳には行かないので、▲4三銀成、△5八馬、▲3二銀成、△同玉と進みます。

やはりこの状況だけみると、飛車金交換となっているので米長先生側の駒得&5八の馬が銀に当たっている&圧力をかけているのでちょっと厳しいんじゃないかなと思ったのですが...

この後、▲5三金打、△4九飛打、▲5九歩打と進みます。

そして△6九銀打と王手をかけ、▲8八玉、△6七馬と金を剥がしにかかります。

この馬ですが、実は同金と取ると中原先生側が詰んでしまうんですよね...

例えば仮に▲同金ととった場合を考えると、△4八飛成と指します。

合間をしないといけないのですが、仮に5八の地点に金合いをした場合、

▲5八金打、△同飛、▲同歩、△7八金打、▲9七玉、△8八銀打、▲9八玉、△9七金打、▲同桂、△8九銀不成

までの詰みとなります。

金合いではなく、角合いをした場合も同様に飛車で角を取り、

△7九角打、▲9八玉、△9七銀打、▲同桂、△8八金打までの詰み。

さらに6八の地点に金合いをしても、△7八金打から▲9七玉、△8八銀打、▲9八玉、△6八龍と金を取っておけば、中原先生側は角2枚しか手駒がないので米長先生の勝ちになります。

伝説の妙手「▲5七銀」

絶体絶命の状況だと思われる局面なのですが、この後の1手で全てが一変します。

▲5七銀!

ん?何だこれは...4八の銀が5七に移動しただけで、馬を取る訳でもなく、銀を逃げるわけでもなく...

しかし、よくよく考えてみるとこの「5七銀」はものすごく恐ろしい1手なんですよね。

まず5七銀と上がった事で、4八の地点に飛車が成れないという事。そして▲同金と馬を取らない限りは先手玉に詰みがないという事...

仮に△7八金打としても、▲9八玉、△7七金、▲5四角打、△2二玉、▲7七桂、△同馬、▲3二金打、△同飛、▲同角成、△同玉、▲5二飛打以下詰み。

という事で、△7八の地点に金を打つと自玉が詰んでしまう...

この5七に銀が上がった事で、詰みを消しつつ、飛車成りを防ぎ、さらに馬を遠ざけるという色々な要素が混ざった絶妙手となっているんです。

という事で、飛車も成れない&詰みも無いという事で、仕方が無く△同馬と銀を取りますが...

▲5四角打、△3一玉、▲3三桂成、△同銀、▲6二金...

この後△4八飛成となりますが、先ほど桂成で取得した合駒▲5八桂馬がピッタリ♪

何だか気がつけば中原先生側の玉がめちゃくちゃ堅くなっていますよね...

これはもう詰みまで持って行けないと判断されたと思うのですが、仕方が無く詰みを消す為に△3二銀打と打ちますが...

▲5一飛打、△4一桂打、▲3二角成、△同玉、▲4三銀打と詰み筋に入ってしまいます...

102手で中原先生の勝利

△同玉ととれば▲5二飛成までの詰みなので、玉が逃げるしかないのですが...

△2一玉、▲4一飛成、△1二玉、▲2四桂打を見て、米長先生投了となりました。

こちらが投了図となりますが、以下簡単に解説しておくと△同歩の場合、

▲3二竜、△2二金打、▲2三金打までの詰み。

△同銀の場合ですが、

▲2二金打、△同玉、▲3二竜までの詰みとなります。

5七銀からの何とも華麗な寄せに圧巻された1局となりました。

対局後、観戦記を担当した方が「この一手(▲5七銀)のために、ここへきて観戦してよかった」と記した事でも有名となり、さらに対戦相手の米長先生が▲5七銀に対して一言「良い手でしたね」と言ったのは有名な話しです。

また中原先生自身も「中原誠名局集(昭和56、筑摩書房)」のなかで、

「5七銀のような手は、めったに生まれない。私が指したなかでも、いちばんいい手ではなかろうか。いまだに印象が鮮明な思い出の一局だ。」

と述べています。

この第4局を制した中原先生は、この後流れに乗って第5局、第6局も勝って名人防衛を果たしました。

ということで、今回中原先生の絶妙手「5七銀」をご紹介しました。

対局から既に40年近く時が経過しているのにも関わらず、未だにいろんな場面で紹介されている&語り継がれている事でも有名です。

最近は藤井聡太四段の29連勝や羽生永世七冠などで盛り上がりを見せる将棋界ですが、過去の対局も数々の名局がありますのでたまに振り返ってみるのも面白いです。