5二銀打!羽生マジック炸裂。羽生善治 対 加藤一二三 NHK杯戦の何が凄かったのか解説

2017年2月24日

【 本記事のターゲット 】

  1. 羽生善治 対 加藤一二三 NHK杯戦の内容を知りたい
  2. 羽生さんが放った伝説の5二銀打の凄さがよくわからない

伝説と良く言われる将棋の名対局の中で、過去の将棋NHK杯で実際に指された「5二銀打」、いわゆる「羽生マジック」が非常に有名です。

最初これを見たときは本当に鳥肌が立ちました。

中には有段者・アマチュアレベルでも5二銀打は出来ると仰っている方もいらっしゃいますが、mogレベルではこれはさすがに見えないです...

実際に何が凄いのか、ある程度将棋を理解している方向けに記譜付きでわかり易く解説してみます。

羽生マジックに関しては、他記事でも色々ご紹介しておりますので、興味がある方は合わせて下記記事も見てみて下さいね。

将棋「5二銀打」が生まれた対局詳細(対局者・対局名・解説者)をご紹介

まずこの5二銀打が生まれた対局の詳細内容です。

対局名

第38回NHK杯戦4回戦第1局(1988年)

対局者(段位は当時のもの)

先手:羽生善治五段

後手:加藤一二三九段

解説者

米長邦雄永世棋聖、永井英明

羽生マジック炸裂!伝説の「5二銀打」の対局内容を棋譜付きで詳しく解説

序盤の戦型は角換わり&棒銀で進んでいく

では5二銀打が生まれたNHK杯戦を将棋盤を使って解説していきます。

ちなみに、初手から棋譜全部を知りたいという方は、下記YouTubeにまとめて解説していますので、良ければ合わせて見てみて下さいね。

ブログ&YouTube動画共にmogレベル(アマ二段)の解説なので、多少間違っていてもご容赦下さい...

まずは先手が羽生さん、後手がひふみんの愛称で有名な加藤一二三さんです。

盤上の下側が先手の羽生さん、上側が後手の加藤さんになります。

NHK杯ということなので早指しです。今も昔も、基本はNHK杯の内容は変わっていないですね。持ち時間10分、使い切ると30秒(各10分の考慮時間あり)の早指しになります。

mog自身もそうですが、視聴者にとってプロの対局を見れる機会ってやはりNHK杯が多いのかなと思います。

なのでアマチュアの間では名局と呼ばれるものはNHK杯の対戦が結構多い気もします。

すみません、話が逸れました。

まずは今回紹介する対局の戦型です。お互いに角交換となり、羽生さんが加藤さんに対して棒銀戦法で挑んでいくといったちょっと面白い始まり方になりました。

実は加藤さんが最も得意とする戦法は「棒銀」、相手の得意戦法を使って挑んでいくという羽生さんの意気込みというのも当時話題になりましたね。

中盤から激しい攻防が続く。一目見ると加藤一二三九段有利に見えるが...

棒銀戦法ですが、銀を捨てて香車+飛車で端を突破するという戦型が多いです。

今回もそれとにたような形になり、羽生さんが銀を捨てて加藤さんの香車と交換し、右端を突破しようと試みている所です。

しかし、途中の棋譜が上記内容となっており、解説の米長さんも言っていましたが「飛車が詰みます。さようなら。」という事で羽生さんの飛車が詰んでしまっています。

どこに逃げても飛車が取られる状況です。

なので飛車は逃げずにここで「▲2四歩打」として加藤さんは飛車を取って、羽生さんは歩で銀と金の2枚替えを狙うような形になりました。※上記図は羽生さんが▲2四歩打と指した局面

素人目線ですが、なんとなく局面は加藤一二三九段の方が良いんじゃないのかな...と思ったり。

お互いコマを捌く、王が露出する格好に。一気に終盤へ

羽生さん側は加藤さんの香車で飛車と桂馬が香車で剥がされ、加藤さん側は銀と金が羽生さんが打った▲2四歩(後にと金)で剥がされた状態です。

その間に加藤さんが羽生さんから取った飛車を1八の地点に打ち込んだ所が上記図となり、手番は羽生さんという状況です。

ここで△2九歩成と加藤さんがすれば、ほぼ必勝状態なんじゃないかなと思うような局面です。

一方、羽生さん側の攻めゴマは盤上の香車1つのみ。持ち駒は、角金銀2香歩と豊富ですが、盤上では攻めゴマとして働いているコマが少なく、加藤さん側の玉の周りは非常に広いように見えます。

せめて持ち駒に飛車があれば、1二の地点に飛車を打ち込んで一気に寄せに持っていく事も可能かも知れませんが...

当然この時点では詰みが無い状態です。

しかし...次の一手で全てが一変します!

伝説の5二銀打!羽生マジック炸裂!解説者の米長先生が雄叫びをあげる

次に羽生さんが放った手が5二銀打!

...ん?なんだこれは?金か飛車でタダで取られるだけなのでは?と一瞬思うのですが...少し考えてみるとこの▲5二銀打、実に恐ろしい手なんです。

この手をみて解説者の米長さんが「おぉー!やった!」とマイクの声が割れるくらい大声で叫んでいました。

一瞬でこの手の意味が分かるなんて、やはりプロってすごいなぁと関心したくらいです。

隣にいた永井さんはmog同様にしばらくこの5二銀打の意味が分かっていなかったようです。

  • すみません、いったいこの手はなんだったんでしょうか...

とテレビで言っていたくらいですので...

同金 or 同飛車の場合は即詰み

では実際なにがすごいのか、順を追って説明していきたいと思います。

まずは同金、もしくは同飛車で銀を取った場合です。金でとっても飛車でとっても結果は同じなので盤上は金で解説します。上記図のようになります。

その後、羽生さんの手番で2三(もしくは1四でも合間効かずなので一緒)の地点に角を打ちます。※追記:ここでは1四の地点に角を打った方が香車も効いてますし合間しても2三の地点に馬が作れるので手順が簡単で済みますね。記事記載してから気付きました...どちらでも詰みには変わりないですが、下記手順はちょっと遠回りでしたね。

もし4二の地点に玉が逃げれば「▲4一金打」で詰みです。なので2一の地点に玉が逃げるしかないのですが...※3一に逃げるのは「▲3二金打」で詰みです。

金銀が手駒にあるので、どちらにしても上記盤面のように玉が詰んでしまいます。

※もし角を打った時に△2二玉と逃げた場合も同様に▲3二金打から△1一玉は▲1二銀で詰み、△1三玉も▲2四銀打で詰み

なので同金や同飛車といった5二銀を取るという行為は詰まして下さいといっているようなもの...

銀はタダですがこの局面では絶対にとってはいけない、取れない銀なのです。

そのまま攻め続けた場合、攻めが続かず詰まされる状態に...

じゃあ取れないならそのまま放置して攻めればいいんじゃない?と思うかもしれません。

では実際にそのようにコマを進めておきましょう。

一旦▲5二銀打の所まで戻って考えてみます。攻める場合は△2九歩成と王手金取りから攻めていく形になると思いますが...

手数を稼ぐために、2八の地点に手駒の合間の歩を打ちます。上記図のようになります。

1手でも羽生さん側に手番渡すと先ほど説明した角打ちから詰んでしまいますので、王手を続けるには△2八飛成しかないのですが...

同金、△同角成で王手が続きません。

手駒に飛車もあるので、角打ちでもいいですし、飛車を2二の地点に打っても加藤さん側の玉が詰んでしまいます。

ということで、この局面では銀をとったり攻め続けて詰ますということは不可能です。

実戦では4二玉と寄るが...

この局面で加藤さんが選択したのが△4二玉です。

玉自らがよって銀を剥がしに行く+角打ちの筋から玉を避けるという意味合いを持っています。

このままでは今度は流石に銀がタダで剥がされてしまうので...

羽生さんは▲6一銀不成と王手の筋を残しつつ、金を補充します。

そして、手番が加藤さん側に回ってきたのですが...先ほど説明した通り、△2九歩成は▲2八歩打でぴったり。これ以上王手+手数を稼ぐことができない状況に追い込まれます。

仕方がなく、「△3九と」と金を取ったのですが...

67手目「3二金打」にて投了。5二銀打ちから電光石火のごとく詰まされてしまった

羽生さんが▲3二金打と指した所で67手にて加藤さんが投了となりました。

実に▲5二銀打の61手目から6手しか進んでいないのですが、ものの数手で投了に追い込むという強烈な一手が▲5二銀打だったのです。

投了図以下ですが、もし同玉と取った場合、

同様に▲1四角打から△4二玉と玉が寄って▲4一金打で詰みとなります。

もし取らずに逃げたとすると、羽生さん側は5二の地点に金を打ち、加藤さんの飛車で金を取るしかないのでそれを銀でとり、玉でとってバラバラにします。

そして、手駒となった飛車を4二の地点に打ち...

6一か5一に玉が逃げるしかないですが、△5一玉の場合は▲6二銀打で即詰み、△6一玉と逃げた場合も、▲7二銀打、△5一玉、▲6二角打で詰みとなります。

こちらの対局、よくテレビでもなんども解説されるくらい将棋ファンの中では有名な一局となっています。

その後羽生さんはこのNHK杯で優勝し、数あるタイトル戦の挑戦権を得て最終的には七冠王になるまで登りつめます。

ちょっと調べてみましたが、羽生さんが最後に段位を名乗ったのは1990年の竜王戦挑戦時らしく、同時六段という肩書きを名乗ったのが最後、それ以降は全てタイトル保持者として段位を名乗ったことがないのです。

26年間もタイトルの肩書きがあるって凄すぎますよね...

※追記:タイトル肩書きがなくなった後は九段として対局されていますが、それでもトッププレイヤーとして素晴らしい対局を繰り広げられています。

ということで、今回は羽生さんが指した5二銀打を詳しくご紹介しました。既に30年以上経過しているのですが、まだまだ将棋ファンの中で語り継がれている伝説の一局です。

もし将棋がある程度分かっていてプロの対局を見てみたい・知りたいという方がいらっしゃいましたら、一度こちらの対戦内容を紹介してみてください。きっと驚いてくれるかと思いますよ。